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第9章 【ウィークエンドはあなたと】
―どうしてこんなことばかり口にしてしまうのだろう。

「―なんだよそれ‥嫉妬してるみてぇじゃねぇか……」

爽介が呆けたように呟いた。
サングラスを外す。
瞳が狼狽していた。

「―お前、俺のことが好きなのか?」

《爽介を好きになるな。みちるは絶対後悔する》

爽介の瞳から視線を反らせなかった。
手遅れだ……。
―私はおそらくこの男のことを好きになってしまった。
絶望した。

『……好きなわけない!爽介なんか大嫌い!!私の前に二度と顔を見せるな!!
死んじゃえ!!』

力の限り怒鳴りつけて部屋に戻った。

*****

「‥迷子みたいな顔してる…」

エプロンで手を拭い、寂しそうに葵が微笑む。
おずおずと、葵の身体にしがみつく。
葵は柔らかく私の身体を抱いた。

『……嫉妬なんかしたくない。
辛い想いなんかしたくない…』

葵の胸に埋めながら、かすれた声を捻り出す。

「‥そう…」

ひっそりと葵が囁く。

『‥爽介は孝ちゃんが嘘つきだって言うの。
孝ちゃんは爽介が隠し事をしている、爽介だって嘘をつくって言うの。
葵は?葵も私に隠し事があるの?嘘をつくの?』

葵のエプロンから石鹸のような清潔な香りがした。

「―あるよ。必要だと感じれば、嘘だってつく」

葵が私の頭をより深く自身の胸に沈める。
私はエプロンの裾をギュッと握り締めた。

「‥だけどね。大切な誰かを守るためにつく嘘もあるよ。相手に隠し事をされたり嘘をつかれたなら、責める前にまず理由を尋ねてごらん。
責めるのは、理由を聞いた後でも遅くない…」

私は首を横に降る。

『……大人になれば、少しは器用に生きられるかと思ってた。
どうして私、いつまでたってもこんな風なんだろう。
どうしてうまく生きられないんだろう。
大人になるって、大人で居続けるってしんどいね‥葵』

嗚咽が洩れた。
私の背中を擦る葵の手のひらのリズムが速くなる。

『―恋なんかしたくない!心なんて無くなってしまえばいいのに!!』

悲鳴のような声が出た。
葵が呼吸を止めた。

「――本当に。
オレも心からそう願うよ」

その声が震えていた。

*****
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