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第10章 【微熱への処方箋】
『孝ちゃんは偉い。
大人になることはそんなに難しいコトじゃないけど、大人であり続けることには努力が必要。私なんてフラフラのぐちゃぐちゃだよ‥』

「みーちゃんがフラフラ、ぐちゃぐちゃしてなかった試しなんて僕の知る限り一度も無いけどね。いつもトロくさくてぼーっとしてた。口に小さい虫が入ってきてたじゃない」

眼鏡を畳んで本といっしょにテーブルに置き、くつくつと笑いながら孝介が寝転がった。
肩肘を付き、タオルケットにくるまっている私の背中をトントンと叩く。

『なんだか散々な言われよう‥爽介にもブサイクだとか糞だとか悪口しか言われないよ…』

孝介が声を上げて笑う。

「みーちゃんは昔から男心がわかんないから‥頭が空っぽなんだよね」

にこにこしながら暴言吐きやがって。

『‥アンタたち…本当に私のコト好きだったの?』

疑惑の瞳で見つめる。

「‥好きだったよ。
みーちゃんはノロノロ歩きながら脳味噌を垂れ流すような子だったけれど。
みーちゃんがひとりしかいないから、僕たちツマンナイ喧嘩ばかりしてたじゃない。
お兄ちゃんはね、乱暴者だけど僕と真央には甘い。お兄ちゃんが僕に手を上げるのはみーちゃん絡みだけ。
本気で殴られたのは、お兄ちゃんの前で“みちる”って呼び捨てした時。幼稚園に通う僕をボコボコにしたからね。頭を13針縫ったよ」

『そんなに激しかったっけ?恐ろしい…』

“ココ、ココ”と頭を付き出す孝介の短い黒髪を撫でる。
孝介の髪の毛は硬くてコシがある。
大型犬を撫でるように頭を撫で回すと、孝介は嬉しそうにじっとしていた。

「お兄ちゃんは他のコトなら何でも譲ってくれるのに、みーちゃんだけは貸してくれなかった。僕もいっしょに遊びたいのにたまにのけ者にするし、僕も膝枕して欲しいのにさせてくんなかった。
《みちるの腹はマシュマロだ》って。
自分ばっかりすりすりすりすり‥こっそりイチャイチャしてたでしょ~マセガキ!」

ジト目の孝介。
恥ずかしさを誤魔化そうと、黒髪を更に撫で回す。
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