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第10章 【微熱への処方箋】
「別に僕のコトを好きになってくれなくても良かったんだ‥少しだけ優しくしてもらえたなら。
お兄ちゃんに向ける愛情を、僕にもちょっとだけ分けてもらえたなら。
イイトコロは全部お兄ちゃんが持っていっちゃう。運動会、かけっこで僕が1位を取っても、みーちゃんはお兄ちゃんのそばでニコニコ笑ってた。
みーちゃんがどんくさく転んでも、助けに行くのは僕じゃなくてお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんのコトは好きだけど、お兄ちゃんの弟でいることがすごく嫌だった。
《安田爽介》の弟でいる限り、僕はお兄ちゃんと同じモノか、それ以上のモノを求められる。僕が歯を食いしばって努力しても、結果を出してもそれは当たり前。爽介の弟だから当然だって皆言う。誰にも褒めて貰えない」

瞬きもせずに、孝介が一気に言葉を紡いだ。
頭を撫でるのを止め、孝介の綺麗な指をゆるゆると握った。

『爽介には爽介の良いところがある。
同じように孝ちゃんには孝ちゃんだけの良いところがある。
爽介と張り合わなくて良い。同じである必要はないよ』

「‥みーちゃんはいつもそう言ってくれたね。だけど、みーちゃんが好きだったのは爽ちゃんだったね。僕じゃなくて。
僕にも良いところがあるはずなのに」

色素の薄い瞳を見つめる。
ゆるゆると孝介の指が握り返す。

「そんな顔しないで。‥取り消すよ。今のは無しね」

『…今日は孝ちゃん、優しいね』

「あのね‥病人と怪我人は労るものでしょ」

爽介と同じ口振りで言うので笑う。
孝介が少しだけ距離を詰め、私の顔を見つめた。

「僕ね、嬉しいんだ。
みーちゃんはお兄ちゃんのコト大嫌いなんでしょ?
‥目黒君はお兄ちゃんにも連絡網を送ったんだよ。でもお兄ちゃんはここに来なかった。それが答えだよね。
お兄ちゃんはきっと今、寝込んでる。どっかの女の胸の中で眠っているよ。
ねぇみーちゃん、今どんな気持ち?」

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