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第10章 【微熱への処方箋】
爽介が顔を背ける。
マスクで表情は見えない。
だけど―
その仕草とキスマークの痕跡から孝介が言う通り、爽介は私以外の女と共に過ごしていたことを知った。
今現在も、この男は数多の女を侍らせているのだろうか。

「穴があれば突っ込みてぇ、穴が無くても突っ込みてぇ。これが男の本能だ。だいたい俺とみちるは何でも無い。俺がどの女を抱こうが関係無い」

爽介の声が固い。
心臓が嫌な音を立てる。痛みが走った。

「‥男なら自分の言葉に責任持てよ?
お兄ちゃんとみーちゃんは何でも無いんだな。僕は今からみーちゃんを抱く。
お前はソコで見てれば?」

*****

「みーちゃん…」

孝介が怪しげなグッズをすべて蹴飛ばし、私の上に覆い被さった。
上半身が剥かれたままの私を抱き上げ、乳房に手のひらが忍び寄る。
蕩けるキスをされた。徐々に口付けは深くなり、頭の奥がふわついた。
微熱が残った身体が再び熱くなっていく…。
孝介のキスは猛毒だった。この肉厚な唇を知れば知るほど、深みに嵌まると思った。
それでも感じずにはいられない。
意図せぬ内に、孝介の唇を求めていた。
そして毒を貪った挙句致死量に値した時、生命を落とすのだろう。
―爽介の女たちは、孝介のこの唇に堕ちたのかも知れない。

爽介はマスクをわずかにずらし、紫煙を燻らせている。
相変わらず表情は読めないが、きっと私たちの姿を見つめているのだろう。
マスクの穴の隙間から、ねっとりと絡み付くような視線を感じる。
私を抱くと言う孝介の言葉に異論を挟まず、無言で私たちを観察する爽介。

「‥爽ちゃんが見てるよ」

孝介が耳元で囁く。
鼓動が速くなった。

『‥どうしてそんな眼鏡掛けてるの…』

意識を反らそうと、溶接用の眼鏡に手を伸ばす。
孝介が私の腕を掴んで布団に縫いとめた。

「火花が出るから。
焼け死なないように気を付けな」

―僕の代わりに爽介に見てもらえよ。

孝介が爽介に似た声色で囁いた。

*****
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