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第3章 【肥やし系年下男子】
貧乏な私が飢え死にしないよう、程よいペースで葵は食べ物を差し入れしてくれる。
これは本当に助かる。

「‥みちるちゃんの好きな生みたて玉子もあるよ。ごはん、食べた?…」

舟を漕ぎながら私の空腹具合を心配する葵。
私も料理は嫌いではないけれど、葵は私よりもはるかに料理がうまい。
ずぼらな私の代わりに掃除、洗濯もこなしてくれる。
二十歳前の男の子に下着を見られるのは正直、複雑な心境なのだけれど葵があまりに自然体なので追求しないことにしている。

葵との関係性を他人に説明するのは難しい。
一言では言い表せない。
出逢った頃から葵は私の世話を焼いてくれている。
腑抜けて引きこもっていた私の元に葵は通いつめ、温かい食事を作ってくれた。
たまに外に連れ出してくれた。
高校受験前の、一番忙しい時期だったろうに。

人影まばらな真冬の動物園で、葵と年老いたキリンを眺めたこともあった。
葵はまだ身長も170cm切るか切らないかで、顔立ちも幼かった。
高校からはじめたバスケットボールとDNAが引き合って、数年後には大男になるだなんて葵も、誰もまだ知らない。
頭はボウズだった。
私のボンボン付きのニットキャップを目深に被り、毛玉だらけのマフラーに寒そうに顔を埋めていた葵を思い出す。
葵の手袋は雪の結晶が編み込まれ、素手の私の手を握り締めてポケットの中で暖めてくれた。

寒くて寒くて早く家に帰りたかったけど。
老いさばらえてみすぼらしいキリンと、どうしても離れがたくなってしまった。
キリンを眺める内に涙が止まらなくなった。
どうして泣くのか、悲しいのか、キリンの前で泣く意味だとか。
私にもわからなかった。
何ひとつ、わからなかった。
ただ、声を上げて泣いた。

―葵は我慢強くそばにいてくれた。
私がひとしきり泣き喚いて目も鼻も溶け落ちた頃、ポケットからコーンスープを取り出して、ふたりで分けあって飲んだ。
鼻水を葵が拭いてくれた。

「‥つららになってる…」

うふふ、と葵が笑う。
私もつられて笑った。


感情のバランスが危うい時、葵はいつでもそばにいてくれた。
何もわからなくても。
そこに理由などなくても。
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