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第3章 【肥やし系年下男子】
“通い猫”と呼ぶにはあまりに失礼かもしれない。
9歳離れた男の子に、私は至れり尽くせりで世話をしてもらっている。

部屋の隅に置かれた“あおいのおかしばこ”の中に、私のお気に入りのチョコレート菓子が補充されていた。
あおいの、と書かれてはいるけれどほとんど私が消費している。
給料前でお財布の中身が軽くなり、葵も忙しくて不在。
食料が底を尽きそうな時は、お菓子箱を漁ると必ず缶詰や即席ラーメンなどを見つけることが出来る。
ある日はティッシュにくるまれた2千円札が出てきたこともあった。
葵はそうやって、押し付けがましくならないように私を守ってくれる。
まるで母親の愛情。
無償の愛。
そして9歳も年下の男の子に甘やかされる駄目な私…。

段ボールに殴り書きされた字に笑ってしまう。
葵の字は大味だ。
おおらかで、のびのびしていて葵の気性そのものだ。
殺風景なこの部屋に葵の気配を感じると心が休まる。

世捨てびとのようにひとを避けて生活しながらも、人間の形を手離さずにいられるのは間違いなく葵のお陰だ。

言うなれば、葵は肥やしだ。
私が地中で眠っている間、暖めてくれる腐葉土。
それが私にとって良いのか悪いのかは別として。
葵の存在は心地良い。
葵の存在は私を安心させてくれる。

―ずっといっしょにはいられないとしても。

「‥野菜スープがあるから、朝ごはんに温めて食べるといいよ。
みちるちゃんの好きなズッキーニが入ってるよ…」

『ん。ありがと』

片方の靴がないせいで結局裸足で帰った道中。
小石でも踏んだのか、足の裏が痛い。
足ふきでさっと払ったけど、玄関が暗かったせいでどんなことになっているのか全くの不明。
―葵に余計な心配をかけたくなかった。
破れたストッキングはキッチンで捨てるとして、葵が目を閉じている合間に入浴のための着替えを探す。
忍び足で葵の前を通り過ぎる。
葵は微動だにしない。
座ったままで寝入っているのか?
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