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第10章 【微熱への処方箋】
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翌朝7時に起こされ、葵が用意してくれた朝食を皆で摂った。
孝介が仕事のため先に出掛け、葵が研究所へ、真央は一眠りするために部屋に戻る。
爽介は私といっしょに車を取りに行くと言い、残った。
キッチンで洗い物をする私の後ろで爽介が丸椅子に腰掛けた。

「―マイコとは何でもない」

聞こえなかったふりをして、手を動かす。

「―何でもない。マイコはタクシーで帰ったぞ」

『そう』

―その胸のキスマークはいったい誰が付けたの?
一昨日は誰の隣で眠った?
尋ねてみたいけど、一言尋ねれば喧嘩が避けられないことはわかっていた。そっと口をつぐむ。
‥私はずるい。
また【眠ったふり】をしてしまう。

「―女は山ほどいるのに、お前の代わりがひとりいないなんて‥絶望だと思わねぇか?」

丸椅子が倒れた。
煙草の匂い。パサついた髪の毛の感触。
高い体温。
背中に感じる爽介の鼓動。

『‥そんなのわからない。私は爽介じゃないから』

爽介の体温を無視し、洗い物の手を休めずに言い放つ。
強引な力で振り向かされた。
爽介が切羽詰まった顔をしていた。
シルバーのような、オリーブグリーンのような髪の毛の上を朝の光が滑る。

「‥なんで認めねぇの?俺はお前を好きだし、お前が俺を好きなら問題なんてないはずだろ?
なぁ、みちる。お前は何をそんなに怖がってるんだ?」

*****

爽介とスーパーの駐車場まで歩いた。
会話するでもなく、手を繋ぐわけでもなくただ近くをふらふらと歩いた。
そのまま爽介は車へと近付いていく。
運転席に乗り込む前に爽介が私に問い質すような視線を投げた。
そのまま、ふたりで暫く見つめ合っていた。
ディープパープルのエンジン音を背中に聞きながら、裏口へと向かう。

―爽介は今夜、誰の隣で眠るのだろう。

*****
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