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第10章 【微熱への処方箋】
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真央に手を引かれ、部屋を出た。
私は白いTシャツにジーンズといういつもの通勤スタイル。
真央は水色のポロシャツに膝下までのジーンズ、バスケットシューズのような白いスニーカー。
群青色のキャップを目深に株っている。

日が長くなった夕方の歩道を並んで歩く。
真央が英語の歌を口ずさんだ。
知っている曲だった。
私も少しだけ唄った。

「スゲー適当じゃん。何語だよ?」

真央が肩を震わせる。屈託の無い笑顔に癒された。
私が唄えば唄うほど、真央がツボにハマるので思いつく限りの英語の歌をいい加減な歌詞で唄った。
少しだけ気が晴れた。
公園の通りを抜け、駅前のあたりでは急に人混みが増えた。
浴衣姿の女の子が多い。

『あれ‥もしかして…』

「七夕祭りだよ。良いタイミングだろ?出店見に行こうぜ!」

1週間続く七夕祭り。
商店街に並んだ屋台を見て回る。
真央は焼きとうもろこし、イカ焼き、たこ焼き、林檎飴を次々と買ってくれた。
色々買ってから部屋でのんびり食べようと話す。

真央がかき氷を買いに行き、私は綿あめの屋台を見ていた。
葵は綿あめが好きだ。
葵のことをぼんやりと考えていた。

『葵……』

甚平姿の葵が、淡いピンク色の浴衣を着た背の高いショートカットの女の子と腕を組んで綿あめの屋台に並んでいた。
さっき私の部屋にいた時、葵は何を着ていただろう?
いっしょにいたはずなのに、どうして覚えていないんだろう?

女の子の手にしているかき氷を葵が頬張る。
女の子が何か言う。
葵が笑った。
先ほど真央が見せたような、屈託の無い笑顔だった。
私が最近葵に強いている、偽物の笑顔なんかではない。
本来の葵らしい笑顔だった。

いつの間にか私は葵を変えてしまった。
私たちの関係が変わってしまったのは、私のせいだ。
私が八方美人で、ふらふらしていて、嘘つきなせいだ。
私はもう、葵があの女の子に向けたような笑顔は向けてもらえないかも知れない。
私は葵の何かを壊し続けている。

そのままいじらしいふたりの姿を見つめていた。
ふたりは身を寄せ合い、ずっと微笑み合っていた。

背後に真央が佇んでいた。
かき氷をふたつ持ち、私の視線の先に目を走らせた。
私にかき氷を差し出し、うんと優しい声色で真央が囁いた。

「帰ろっか‥」

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