この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Re:again
第11章 【追憶の向日葵】
*****
【―20歳になると青春が死んじゃうんだよ】
7月の第3週になった。
8月3日、葵の誕生日がもうすぐそこまで来ていた。
葵は相変わらず研究に明け暮れ、空き時間には律義に私の部屋を訪れた。
私たちは《これまで》と変わらずに食事を取り、いっしょに遊び、ふたりで寝転がった。
本物か偽物かわからないけれど、葵はずっと笑顔で機嫌が良かった。
ふたりで縺れていた。
勘を少しでも取り戻そうと、私は相当な量のラフスケッチを描いた。
描けば描くほど、昔の自分の画力に近付くような気もしたし、その逆のような気もした。
最低限の日常の営み以外は何かを描く生活。
こんな風に毎日をやり過ごしたら、ある日パタンと気をたがえるのかも知れない。
いいや、いくら描いても私がそこまで突き詰めることが出来るはずがない。
心から満足出来る一枚を仕上げることが出来るならば、そうなっても構わないと思っていた頃のことを思い出す。
―スケッチに埋もれた部屋で、葵とくっついて過ごす。
そうやっていると、中学生の頃の葵がまざまざと思い出された。
“みちるさん、みちるさん”と、言葉をどもらせながら一生懸命私に話し掛けていた葵。
“ウーパールーパーを見たことある?”
“今日はね、イワシの形の雲を見たよ”
―焦らなくていいから、ゆっくり喋ってごらん。
そうやって声を掛けると、深呼吸を1つ、蕩けるような微笑みを浮かべていた葵。
時が流れ、思慮深い男の子に成長した。
いや、男性になった。
―わかっているのだ、本当は。
葵はもう、こどもなんかじゃない。
大学に合格して私の呼び方を変えたあたりからずっと、もしくは私が気付かない内にそっと、葵は大人になっていた。
ふたりでこどものようにじゃれあいながら、そのことに気付かないふりをしていた。
認めてしまえば、葵を手元に置いてはおけないことがわかっていたから。
あの頃、葵に教えたことを覆してしまいたい。
葵。大人になんかならなくていい。
大人になんかならずに私とずっといっしょにいよう、と。
こどもの時分の葵が消えてしまうのが私は寂しい。
こうしている今も、可愛い葵の面影がどこか忘却の彼方へと散ってしまうようで哀しい。
*****
【―20歳になると青春が死んじゃうんだよ】
7月の第3週になった。
8月3日、葵の誕生日がもうすぐそこまで来ていた。
葵は相変わらず研究に明け暮れ、空き時間には律義に私の部屋を訪れた。
私たちは《これまで》と変わらずに食事を取り、いっしょに遊び、ふたりで寝転がった。
本物か偽物かわからないけれど、葵はずっと笑顔で機嫌が良かった。
ふたりで縺れていた。
勘を少しでも取り戻そうと、私は相当な量のラフスケッチを描いた。
描けば描くほど、昔の自分の画力に近付くような気もしたし、その逆のような気もした。
最低限の日常の営み以外は何かを描く生活。
こんな風に毎日をやり過ごしたら、ある日パタンと気をたがえるのかも知れない。
いいや、いくら描いても私がそこまで突き詰めることが出来るはずがない。
心から満足出来る一枚を仕上げることが出来るならば、そうなっても構わないと思っていた頃のことを思い出す。
―スケッチに埋もれた部屋で、葵とくっついて過ごす。
そうやっていると、中学生の頃の葵がまざまざと思い出された。
“みちるさん、みちるさん”と、言葉をどもらせながら一生懸命私に話し掛けていた葵。
“ウーパールーパーを見たことある?”
“今日はね、イワシの形の雲を見たよ”
―焦らなくていいから、ゆっくり喋ってごらん。
そうやって声を掛けると、深呼吸を1つ、蕩けるような微笑みを浮かべていた葵。
時が流れ、思慮深い男の子に成長した。
いや、男性になった。
―わかっているのだ、本当は。
葵はもう、こどもなんかじゃない。
大学に合格して私の呼び方を変えたあたりからずっと、もしくは私が気付かない内にそっと、葵は大人になっていた。
ふたりでこどものようにじゃれあいながら、そのことに気付かないふりをしていた。
認めてしまえば、葵を手元に置いてはおけないことがわかっていたから。
あの頃、葵に教えたことを覆してしまいたい。
葵。大人になんかならなくていい。
大人になんかならずに私とずっといっしょにいよう、と。
こどもの時分の葵が消えてしまうのが私は寂しい。
こうしている今も、可愛い葵の面影がどこか忘却の彼方へと散ってしまうようで哀しい。
*****