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第11章 【追憶の向日葵】
*****

『私、葵の写真が欲しい』

葵がきょとんとした顔で私を見つめた。
わらびもちのきな粉や黒蜜で汚れた口元を拭ってやる。
唇を突き出してきたので、唇を舐めた。
にっこりと笑い、わらびもちを私の口元に運ぶ葵。

「‥みちるちゃんもいっしょに撮ってくれるならいいよ…」

『どうやって撮るの?セルフタイマー?』

写真に写るのは苦手だけれど、どうしても今の葵の姿を手元に残しておきたかった。
出来ればデジタルではなく、アナログで。
その方がのんびりとした葵の雰囲気に合っているような気がした。

「‥写真舘で撮ってもらおうよ‥オレ、成人式の写真も撮ってないし。せっかくだから」

ぽろぽろきな粉を落としながら葵が笑う。
私は成人式に出ていない。
その頃は既に隣県で仕事をしていた。
そんな話を成人式のニュースを見ながら溢した去年の始め。
葵はコタツに入って蜜柑をムシャムシャと食べていた。
“じゃあオレも出ない。おそろい”
トンチンカンな優しさを見せ、葵はそう呟いた。
毛玉だらけの、昔私が編んであげたつんつるてんのセーターを着た葵。
何かを決意すると、葵は譲らない。
二度と成人式のことは話題に上がらなかった。

あれから数ヶ月後には爽介たちと再会して、こんな風になるだなんて思いもしなかった。
色気のイの字もなく、ぽやぽやとふんわり綿あめでいられたあの日々が懐かしい。

「‥んで、遺影にするの…」

『遺影?!』

「‥みちるちゃん、知らないの?
20歳になると青春が死んじゃうんだよ。
だからオレのお葬式をしてよ。
19歳のオレを弔って…」

*****

19歳の葵のお葬式の前日、私は猛烈に忙しかった。
店長に頼み込んで13時で早上がりさせてもらい、抱えきれないほどの食材を買い込んだ。
一度帰宅し、農家のおじさんのお手伝いをする。
松山のおじさんは親切なひとだ。
野菜や生みたて卵をを分けて貰う。
何の見返りもなく、他人に優しさを贈ることが出来るひと。
ほらね。神様は近くにいるじゃないか。
こんなひとたちがきっと、世界を見えない力で守っている。

卵を15個茹でた。
一晩老酒に漬け込んだ豚バラブロックの水気を拭い、ウーロン茶で湯がく。
火がさっと通ったところで薄口醤油、日本酒、ざらめ、蜂蜜、薄切り生姜、八角をひと煮立ちさせた煮汁で煮る。
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