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第11章 【追憶の向日葵】
「‥他人のコトばっかり心配して自分には無関心。少しは自分にも優しくね‥ねぇ、写真舘行くの止めて今日はこうやって過ごさない?…」

背中へのキスを続けたまま葵が呟く。

『ダメッ!今日は19歳の葵のお葬式をするんだから…』

ちぇっ‥としぶしぶ、葵がファスナーを上げる。

古い写真舘で喪服姿のふたりの写真を撮ってもらう。
嫌がる葵を説き伏せて、葵ひとりの写真も撮ってもらった。

*****

「‥みちるちゃん、コレいつの間に準備したの…?」

帰宅後、ネクタイを緩めてくつろぐ葵の前に角煮、餃子、コロッケを次々と並べた。
前もって煮込んでいたカレーも出す。
角煮もコロッケも美味しく出来た。
餃子は鉄鍋でハネ付きにした。

『19歳の葵を、空腹のままで逝かせるわけにはいかないもの』

どや顔で言い放つ。
変な組み合わせだけど、味には自信があった。

「‥ふぅん。ねぇ、みちるちゃん‥もしかして何か思い出した?…」

並べた料理をしげしげと眺めながら葵がうそぶく。

『何が?葵の好きなものを作っただけだよ』

「‥期待しちゃった。みちるちゃんって、ツレナイ女…」

葵が立ち上がり、スーツを脱ごうとする。

『もう脱いじゃうの?格好良いのに。ハンサムスーツ葵』

葵がうんざりした顔を浮かべる。

「‥スーツは窮屈。
手錠と首輪みたいじゃん。そんなモノにオレは縛られたくないの。
せっかくご馳走が目の前にあるんだから、お腹一杯堪能したい」

『だって葵がちゃんとした格好しているところなんてほとんど見たこと無いんだもん。
いつも変なTシャツばかり』

葵がはぁ?!と叫ぶ。
大きな声でびっくりする。

「‥みちるちゃんが着てって言ったんでしょ。昔、部活T着てたら相当ウケてたじゃない…」

部活T‥?

『あぁ‥高校のバスケ部の?』

「‥そう。全面にさくらんぼとバナナの絵。背中に“一球入魂”って書かれたヤツ。死ぬほど笑ってたじゃない。意味がわからない、これを作ったひとの顔が見てみたいって」
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