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第11章 【追憶の向日葵】
『これでも巻き付けときなよ』

洗いざらしの白いシーツを引っ張り出して、全裸でゴロゴロ寝転がっている葵の顔に落とす。

「‥脱いだ意味がないじゃん‥ヌードデッサンって萌えるでしょう?…」

『そんな性癖はない!もー。変なトコばっかり爽介に感化されてる。裸でふらふらしてたコトなんかなかったのに』

「‥中高生のオレがみちるちゃんの部屋で裸で過ごしていたら大問題でしょ。
捕まっちゃってたよ?別に脱ぐコトに抵抗はない。みちるちゃんに遠慮して脱がなかっただけ…」

『遠慮しなよ。今だって恥ずかしいよ』

「‥お互い全部見てるじゃない。みちるちゃんは淫乱だし、オレは大人です‥問題はありません…まぁ、いいや。こんな感じ?」

『ソクラテスっぽいね。得体が知れない格好が本当に似合うね』

「‥褒めてんの?貶してんの?どっち…向日葵は?…」

シーツを身体に巻き付けたソクラテス葵に向日葵を投げた。
向日葵に埋もれた葵は、ミレイのオフィーリアのように幽玄で生きているのが恐ろしくなる。
この子はどうしてこんなに綺麗なのだろう。

葵が私の腕を引く。
眼を閉じないまま、唇を奪われた。
いつになくオトコの眼をしていてドキリとした。

「‥本当は思い出しているんでしょう?
焦らしちゃって‥悪趣味。
―優しいみちるさんはドコ行っちゃったの?オレの優しい綺麗なお姉さんは」

*****

キャンバスに下地を塗る。乾くまでに時間が掛かるため、今日はイメージデッサンを描くことにした。
葵の姿を色んな角度から描く。

「‥みちるちゃん、どうして絵を描くこと止めちゃってたの?
好きでしょ?…」

『―好きだから。好きの沸点を超えると、好きだけではいられなくなる。
執着はひとの心を不自由にする』

「‥好きなら大事にすればいいんじゃない?胸にそっと抱いて。
片時も手離さずに。
オレならそうするよ」

『―葵はまだ、何も喪っていないから。
何かを喪えばきっとわかるよ。私の言うことが』

「‥またこども扱い。ずるい…」

『生きていく内にどんどんずるくなるんだよ。ずるくないと大人じゃない』

鉛筆を走らせる。

『‥葵、雰囲気は掴めたからもう楽にしていいよ』

*****
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