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第3章 【肥やし系年下男子】
膝立ちになった葵が私の腰を抱く。
葵が未だかつて、このように接近したことはなかった。
緊張が、閃光のように身体中を駆け巡った。

「‥爪、噛んじゃダメ。何かイライラすることがあったの?…」

指先を怪しくなぞられ、咄嗟に振り払う。
葵がふ、と笑う気配。
指を絡めとられる。
ちゅうっと、音を立てて指先を吸われた。
爪先に指先に、生暖かい葵の舌を感じる。

「‥ボタン、とれかけてる。後でつけといてあげる…」

身長差のせいで膝立ちでも葵の顔は私の胸の位置にある。
爽介とのいざこざでとれかけたらしいボタンを、葵は爪で弾いた。
葵が胸元に擦り寄る。それは爽介の仕草を思い出させるには充分で―

「‥甘い匂いがする。変なの。みちるちゃん、香水なんてつけないのに。ねぇ?」

細長い指に私の髪を巻き付けながら、葵が上目遣いで尋ねた。
爽介の移り香だ…
葵は遠縁でも親戚で、9歳も年下の男の子で‥
仮に誰か他の男と何かがあったとしても後ろめたく思う必要はない。
それなのに…
背中から冷たい汗が吹き出ていた。
私の動揺は“彼氏に浮気が見つかった時”そのもの。

葵の右手はゆるゆるとストッキング越しの脚を撫で、左手はブラジャーのホック付近を撫でていた。
ひとしきり私の身体を撫で回した手のひらの動きが、止んだ。

「‥全部綺麗に洗い流しておいで。お布団敷いておくから…」

耳元に息を吹き掛けられ、私は浴室に逃げ込んだ。

*****

バクバクと煩い心臓を無理矢理宥めながら、熱いシャワーを浴びた。
鏡には爽介からつけられた赤い痕が残っている―
水しぶきが肌を滑る度、妙な気分になった。

指先がふやけるくらい洗い流した後で、シャンプーを泡立てる。
ボロアパートのユニットバス。
シャワーカーテンの向こうに人の気配を感じた。

「‥みちるちゃん…」

カーテンを開けられれば、ひとたまりもなかった。

再び煩くなる心臓。
いったい何なの!
今日は厄日だ…。
部屋に帰れば安心安全な“つまらない日常”に戻れたはずなのに!
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