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第11章 【追憶の向日葵】
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「―斎藤みちるさん、ですよね?」

“早織”と名乗る女性が私の部屋を訪ねて来たのは、七夕祭りで葵の姿を見掛けてから3日後のことだった。

祭りの日に葵と腕を組んでいた、ショートカットの女の子。
目元の涼やかな美人。
これからいくらでも輝ける、葵や真央と同い年の女の子。
早織ちゃんは、葵の幼なじみだった。

彼女は私が知らなかった葵の《これまで》を教えてくれた。
保育園、小学校、中学校をふたりでいっしょに通ったこと。
虐められっ子の葵をずっと早織ちゃんが守ってきたこと。
同じ高校に進学しようと約束をしたこと。
中学3年生の夏休みに入る前、早織ちゃんは葵に告白したこと。
葵は了承したこと。
受験を見据えて、ちゃんとした付き合いは無事に希望校に合格してからにしようとふたりで決めたこと。
夏休みが明けた途端、突然葵に別れを告げられたこと。
理由を訊いても、葵は決して理由を明かさなかったこと。
葵が受験先を急に男子校に変えたこと。
中学卒業を期に、早織ちゃんを避け続けていること。
葵の異変を突き詰める内に、私という存在に早織ちゃんが気付いたこと。

条件が良い複数の大学からの招待を蹴り、私のそばにいるために葵がこの土地に留まったこと。
早織ちゃんが詰め寄ると、“あのひとのそばから離れられない。死んじゃうから”と葵が呟いたこと。
私が今まで眼をそらしてきた何もかもを―

「―あなたが現れてから、葵は変わりました。私たちの何もかもがすっかり変わってしまいました。
それでも、私は葵のことが好きなんです。
何度も諦めようとしました。
葵の幸せを願おうと考えました。
でも、無理なんです。私には今の葵が幸せそうには思えない。
私なら、葵を大切にします。私は葵しか欲しくないんです。
他に何もいらない。お願いします。
―私に、葵を返して下さい」

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