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Re:again
第12章 【乱・反・射】
セックスもせず、手を繋いでたくさんの話をした。
ふたりで暮らす部屋の希望を訊かれ、“日当たりの良い部屋”と答えた。
色々考えてはみたけれど、それ以上に思いつくことがなかった。
暫くした後、“キッチンが広いところ。作業台が置けるような”と付け足す。
自分が暮らす空間を思い浮かべた時、今暮らしているあのボロアパートしか浮かばなかった。
白蟻が出たり、ガタがきてはいるけれど、朝日が差し込むあのキッチンに立ち、蜂蜜の瓶や調味料や調理器具に囲まれていると、何だか大抵のことは乗りきれるような気がしてくるからだ。
爽介が“わかった。頭に入れておく”と甘く囁く。

「これからはずっといっしょにいられるから、慌てて抱かなくてイイ。お前は自分が誰のモノかやっと自覚したし、大切にしたい」

翌日の遠足を楽しみにするこどものように、爽介が無邪気に笑う。

本当に、どうしようもない男。
平気で女を連れ込んで、ないがしろにして、相手の心を考えない。
“俺には関係ない”と冷たく言い捨てた同じ唇で、私に愛を囁く男。
なんて残酷なスケコマシ。

爽介に呆れ、その男を選んでしまった自分に呆れ、残酷さをふたりで分かち合って眠りについた。

*****

―夢をみた

銀杏の葉がひらひらと舞い散る街路樹。
落ち葉の絨毯を蹴散らしながら私は歩いていた。

夢を見ながらも、私は自分が見ているものは夢だと、ここは夢の世界だと認識していた。
これまでの夢は、《彼》と暮らしたあの部屋がすべてだった。
大学の旧キャンパスの建物の前を歩きながら、ミステリの新刊を小脇に抱えて私は《彼》と暮らしたあの部屋へと向かっていた。

狂ったように頭上から降り注ぐ銀杏の葉の雨が、私の心をざらざらと撫でた。
―誰かを、手酷く傷付けてみたい。

亡くなった祖母に会いたかった。
実家に帰りたかった。
故郷に帰りたかった。

―帰りたい。

夢の中で小さく呟く。
だけど、私に帰る場所はもう、ない。
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