この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Re:again
第12章 【乱・反・射】
―誰かを、傷付けてみたい。
心を踏みにじって、同じ気持ちを味あわせてやりたい。
ある日、私の世界は踏み荒らされてがらがらと音を立てて崩壊した。
祖母亡き後、お嬢さん育ちの母はずっと涙に暮れていた。
本当は優しくしてあげたかった。
けれど、口から出てくるのは思いも掛けない言葉ばかり。
お互いを思っているはずなのに、私たち母子は無意味に傷付けあった。
母のことを考えるなら、離れるしかなかった。
―帰りたいの。本当は。
《彼》の膝にすがりつく。
―わかってる。ミチは本当は、優しい子なんだから。
“ミチ”と《彼》は私を呼んだ。
初めは“みちる”と呼ぼうとしたが、私が許さなかった。
爽介以外の異性に、呼び捨てを許したことはない。
《彼》はそのことを追求しなかった。
優しい男だった。
優し過ぎる男だった。
《彼》が私に心を尽くしてくれる度に、沸々と怒りが込み上げた。
私のことなど何も知りはしない癖に、わけ知り顔で“本当は優しい子”などと宣う唇を塞いだ。
思いつく限りの暴言を浴びせ、時には《彼》の頬を打った。
自分がされた理不尽な仕打ちを《彼》に思い知らせてやりたかった。
《彼》が私に愛想を尽かして、去ってくれればいっそ楽だったのに―
《彼》は私のことを“優しい”だなんていつまでも甘事を言う。
私が何をしても、《彼》は健気に耐えた。
突如として起こる私の感情の大噴火が沈下するまで、息を殺して私のそばにいた。
―あなたに、私の何がわかる?
ある日いきなり、皆に手のひらを返されること。
抗う術もなく、あらゆるものが奪われていくこと。
じきに考える力まで奪われていくこと。
哀しいという感情はいつまでも維持出来ないこと。
残るのは怒りの感情だけ。
自分が奪われたように、他人から何かを奪いとってやりたいという暴力的な感情だけが残るということ。
あの部屋に戻ってはいけない。
戻ってしまえば、後戻り出来なくなる。
私は《彼》の心を壊すために…―
*****
心を踏みにじって、同じ気持ちを味あわせてやりたい。
ある日、私の世界は踏み荒らされてがらがらと音を立てて崩壊した。
祖母亡き後、お嬢さん育ちの母はずっと涙に暮れていた。
本当は優しくしてあげたかった。
けれど、口から出てくるのは思いも掛けない言葉ばかり。
お互いを思っているはずなのに、私たち母子は無意味に傷付けあった。
母のことを考えるなら、離れるしかなかった。
―帰りたいの。本当は。
《彼》の膝にすがりつく。
―わかってる。ミチは本当は、優しい子なんだから。
“ミチ”と《彼》は私を呼んだ。
初めは“みちる”と呼ぼうとしたが、私が許さなかった。
爽介以外の異性に、呼び捨てを許したことはない。
《彼》はそのことを追求しなかった。
優しい男だった。
優し過ぎる男だった。
《彼》が私に心を尽くしてくれる度に、沸々と怒りが込み上げた。
私のことなど何も知りはしない癖に、わけ知り顔で“本当は優しい子”などと宣う唇を塞いだ。
思いつく限りの暴言を浴びせ、時には《彼》の頬を打った。
自分がされた理不尽な仕打ちを《彼》に思い知らせてやりたかった。
《彼》が私に愛想を尽かして、去ってくれればいっそ楽だったのに―
《彼》は私のことを“優しい”だなんていつまでも甘事を言う。
私が何をしても、《彼》は健気に耐えた。
突如として起こる私の感情の大噴火が沈下するまで、息を殺して私のそばにいた。
―あなたに、私の何がわかる?
ある日いきなり、皆に手のひらを返されること。
抗う術もなく、あらゆるものが奪われていくこと。
じきに考える力まで奪われていくこと。
哀しいという感情はいつまでも維持出来ないこと。
残るのは怒りの感情だけ。
自分が奪われたように、他人から何かを奪いとってやりたいという暴力的な感情だけが残るということ。
あの部屋に戻ってはいけない。
戻ってしまえば、後戻り出来なくなる。
私は《彼》の心を壊すために…―
*****