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第12章 【乱・反・射】
「‥トキちゃんの夢をみたよ…」

葵の祖父が微睡みながら口にする。

葵の祖父と初めて会ったのは祖母のお葬式だった。
葬儀中も獲物を狙う禿鷹のように、親類はわずかな財産分与で揉めていた。
その財産すらも明日には負債の返済に回さねばならないという状況で、実に滑稽だった。
母は泣き濡れたが、私はふすまの染みばかり睨んでいた。

皆、どうにかなってしまえばいいと思った。
祖母の死を悼む気持ちがない者共など、どうにかなってしまえばいい。
厳かな死の前で金勘定の話などする人間は、地獄に堕ちてしまえばいい。
生まれて初めて、私は他者に悪意をぶつけた。
全く関係のない道行く見知らぬ人々にまで、悪意の泥団子を背中にぶつけて滅茶滅茶に汚してやりたかった。

そんな中、ふらりと現れた葵の祖父だけが純粋に祖母の死を嘆いてくれた。
人目も憚らず、畳の上に突っ伏し、いっしょにお棺の中に入ってしまいそうな勢いで泣き喚いた。
祖母の面影を残している私の顔を見て、

「トキちゃん、トキちゃん」

と、こどものように泣きすがった。
大人の男が、祖母と歳が近い老人が泣きじゃくる姿を目にするのは初めてだった。
そんな姿を見ていたら、自分が祖母の死を途方もなく悲しんでいることに気付いた。
私も泣いていいのだと気付いた。
初対面であるのに、葵の祖父と抱き合って祖母の魂の不在を嘆いた。
寂しい、寂しい、おばあちゃん逝かないでとわんわん涙を流した。

葬儀の後、ふたりはイトコ同士であること。
本家である祖母の家、私の実家で共に幼少期を過ごしたこと。
許嫁だったが、別々のひとといっしょになったことを葵の祖父の口から聞かされた。

遺品整理の際、ご先祖様の仏壇から、葵の祖父の写真が出てきた。
出兵前の写真だった。
曾祖父母の形見分けの品、母の嫁入り前の写真、私が贈った小銭入れなど祖母の大切なものが雑多に詰め込まれている中で、葵の祖父の写真だけはふくさに覆われ大切にしまい込まれていた。

―祖母が生涯、誰にも打ち明けなかった想いと秘密を知った。

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