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第12章 【乱・反・射】
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『夢の中の祖母は笑っていましたか?』

「あぁ‥娘時代でね。お気に入りの銘仙の着物を着ていた。牡丹の絵柄の―」

『良うございました。祖母は幸せ者ですね…亡くなった後も覚えていてもらえるのですから。
…今日は藍鉄お祖父様にお願いがあって参りました』

葵の祖父の眼が少しだけ開かれた。
似ていないのに、葵に見つめられているような気分になる。

『藍鉄お祖父様にはこれまで随分とご面倒をお掛けしました。
祖母の葬儀の後も、私がこちらに帰ってきてからのことも。
藍鉄お祖父様だけがお力を貸して下さいました。‥あのアパートを出ようと思います。
先ほど、職場に退職願いを出してきました。
何のご恩も返せないままなのですが‥』

葵の祖父が肩肘をついた。

「そうかね‥。恩も何もない。空いていたから貸したまで。
みちるちゃんが気に病むことなど1つもない。
遠くに行くのかね?」

『‥以前住んでいた街に戻ります。
もう一度、人生をやり直してみます』

「何度でもやり直せばいい‥遅すぎることなどないのだから。
いつまでおる?」

『9月あたりまで。職場との兼ね合いもあるので、出ていく日にちが中途半端になるかも知れません‥お家賃はその分お支払致します』

「それは気にしなくていい。本当はあんなあばら家、あなたのようなお嬢さんが住むようなところじゃない」

大きく手を振って葵の祖父が笑う。

「―アレにはもう、話したかね?」

『いいえ‥じきに』

「―みちるちゃんはうちの葵と好きおうとるかと思っていたが、勘違いじゃったか。
儂も耄碌した」

薄く微笑みながら葵の祖父が目蓋を閉ざす。
何も答えられずに、私の両眼から雫が落ちた。
葵の祖父はまだ、目蓋を閉ざしている。

「―アレは、優し過ぎたかね?」
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