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第13章 【さよならの向こう側】
いい子だと思った。
初対面の時からそう感じていた。
清廉潔白という言葉が似合う、清々しい女の子。
こんなお嬢さんだから、葵もずっといっしょにいたのだろう。

「―葵の誕生日に、家を訪ねたんです。
家政婦さんにお願いしたんですけど‥取り次いでもらえなくて。
翌日大学の帰りに寄ると‥いなくなっていました」

8月5日の夕方、華絵さんが電話を寄越してきた。

“昨日から葵さんがいないんですけど、そちらにお邪魔していませんか?”

慌てて葵の祖父に換わってもらった。
葵の祖父は

“大丈夫。時間が必要なだけだ、何も心配することはない。
みちるちゃんは自分のことだけ考えていなさい。”

と、私を諭した。

「大学にも来ていないみたいで‥あ、私も葵と同じ大学に通ってるんです。
安田君と同じ国文科で‥みちるさんは安田君とお知り合いなんですよね?」

真央が隣人であることを知らないのか、早織ちゃんが尋ねる。

『そう。彼のお兄さんたちと知り合いなの‥』

そう言葉を紡ぐ。
爽介たちのことも詳しくは知らないらしい。
早織ちゃんは軽く頷いた。

「安田君も気にしてて。誕生日に電話を掛けたら葵の様子がおかしかった、家にも大学にもいない。いったいどこにいるんだって話になって‥心配しているんです。
おじいちゃまは“放っておけ”の一点張りで‥ご両親にも伝えてないようですし」

ハンカチを握り締め、早織ちゃんが俯いた。

「―私、あさましいですよね。葵を返してくれと迫ったり、今日だって何も考えずに押し掛けて。
みちるさんが葵のことを隠しているんじゃないかってどこかで疑っていました。
ごめんなさい‥」

声も出さずに早織ちゃんが静かに涙を流す。

窓を締め切って空調を効かせているのに、蝉の声がやけに響く。
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