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第13章 【さよならの向こう側】
葵の下手な石投げを見かねて、私も小石を飛ばした。5回跳ねた。

「‥すごい!すごい!もう1回見せて!…」

葵がぽやと笑う。慌てたように、すぐに無表情になった。
私はまた、小石を投げた。
6回跳ねた。今度は喜ばなかった。

『‥なんで黒い服ばっかり着てるの?
葵は可愛い色の方が似合うよ』

「‥喪が明けてないから。四十九日が済んでない…」

葵が小石を投げる。
すぐにぽちゃんと沈む。

「―首、どうしたの。赤くなってる」

葵が無表情で自分の首を指す。
咄嗟に赤い痕を手のひらで隠す。
葵は黙って見つめている。

『…葵も孝ちゃんたちとナンパに行ったの?』

葵が私の顔を穴が開くほどじっと見つめた。

「‥した。入れ食い。オレね、女アソビするの。《ひと夏の経験》ってやつ…」

葵はおもむろに立ち上がり、小石を蹴って川に沈めた。

『早織ちゃんを大事にしてあげなよ。
いい子なんだから‥』

二の腕に虫除けスプレーが勢いよく吹き付けられた。

「‥余計なお世話。
オレは狂犬になりました。飼い主に捨てられちゃったんです…誰彼構わず噛み付きたい」

『葵!そんなこと言っちゃ‥ダメだよ…』

「‥いーっぱいいーっぱい女のひとを泣かせてやるの。100人斬りしてやる‥ぜーんぶ誰かさんのせい!いーだっ!」

歯を剥き出しにして、威嚇された。
葵が輪に戻って行く。

―早織ちゃんの横で、葵は天使のように微笑んでいた。

*****

暮れなずむ雄大な大地に抱かれて、のんびり夕食を楽しんだ。
水色の空がオレンジ、朱色に染まってゆく―
沈む太陽を惜しむ頃には、暑さも幾分和らぎ風が木の葉を揺らした。

ビーチチェアでうたた寝する爽介の横で、風の声に耳を傾ける。
ボシャン!と何かが飛び込む音が聴こえた。

「わー‥目黒君、やるぅ」

孝介が感嘆する声。
盛大な水しぶきを上げながら、葵が緩やかな川の流れに逆らってバタフライを魅せた。
洋服を着たまま、泳ぐ様が綺麗だった。
頭を丸めても、葵はやっぱりひとと違う。
見惚れた。
早織ちゃんも頬を染めて見つめている。

「俺も!俺も!ミーコ、見て!」

ビキニ姿の真央が、浮き輪を付けて川に飛び込んだ。
葵が巻き添えになり、怒った葵に真央は川底へと身体を沈められた。
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