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第13章 【さよならの向こう側】
「‥あっ!猫だっ!
にゃ~お‥にゃ~お…」

野良猫を見つけ、興奮する葵。
猫なで声を上げる大男が恐ろしいのか、野良猫はぴたりと固まっている。

『…怖がってるよ。猫はね、追い掛けちゃいけないの。
じっとしててごらん。あっちから寄ってきてくれるのを待たなきゃ』

食べてしまいそうな勢いで葵が野良猫に迫る。

「猫抱きたい!遊びたい!」

俊敏に飛び掛かるも、野良猫にかわされる葵。
野良猫は座っていた私に擦り寄り、お腹を見せてじゃれついてきた。

「‥ズルい!オレも猫撫でたい!…」

『葵も来てごらん‥そっとね?大きな声を出すと逃げちゃうよ。
特に野良はね、こっちに敵意がないことをわかってもらわなくちゃ』

息を詰めて葵が私のそばに座った。
野良猫は一瞬びくりとしたが、葵の指先を受け入れた。
接し方が不器用なだけで、葵は生き物が大好きなのだ。
嬉しそうに、口角が上がる。

「‥あなたには野良の生き物がなつくよね…」

『私の心が空っぽだからじゃない?
‥遊んで欲しい時はね、心が通うのを待つの。ひたすらじっとね』

葵の瞳が私を捕らえた。

「‥女心といっしょ?
待てばあなたはオレと遊んでくれる?
また前みたいに可愛がってくれるの?」

*****

「‥あっ!かぶと虫だ!ヤッター!みみちゃんのお土産にしよう…」

重くなった雰囲気を一掃するように、葵が無邪気にメスのかぶと虫を捕まえた。
畦道に放置されていた虫かごの中に入れる。

『‥道端を歩いてたんだから弱ってるんじゃない?
森に放してあげようよ。きっと仲間がいるはずだから』

葵の手を掴むも、振り向いた葵の瞳は冷たかった。

「‥逃がさない。オレは今、寂しいから。
自分の寂しさを埋めてくれるようなモノは、何でも利用する。
相手のコトなんてどうだってイイ」

唇をわななかせながら、私の腕を振り払い、葵がスタスタと歩き出す。
急に頭上から雫が降り注いだ。
先ほどまで天気が良かったのに、雨が降り始めた。
次第に雨足が強まる。

「‥ぼーっとしてないでついておいで!濡れ鼠になっちゃうよ!」

葵の後を追った。

*****
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