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Re:again
第13章 【さよならの向こう側】
葵が小さく息を詰めた。
「‥よく覚えていたね。あなたはすぐに何でもかんでも忘れちゃう、記憶喪失のようなひとなのに」
―5年前…、《彼》と暮らしていた部屋を衝動的に飛び出した。
最小限の荷物だけを携え、夜逃げのようにあの街から消えた。
夜行バスに乗り込む前に、1本の電話を掛けた。
“空いている部屋があれば貸して欲しい”と、葵の祖父に頼み込むためだ。
葵の祖父は何も訊かず、快諾した。
住所を教えられ、“訪ねて来なさい”と告げられた。
バスを降り、まっすぐ葵の自宅へと向かった。
暴風雨によって赤いスーツケースは泥だらけになり、ビニール傘は折れて使い物にならなくなった。
川が氾濫し、橋が倒壊するような嵐の中、私はただひたすら歩いた。
立ち止まってしまえば、もう二度と歩けなくなってしまうような気がした。
余計なことを考えないように、脚を進めた。
インターホンを押し、出迎えた葵の表情が、今でも頭から離れない。
『―地獄の鬼が目の前に現れたかのように、葵は怯えていたからね‥』
葵を前に、この子には言葉が通じるのだろうかと焦った。
外国人かと思ったのだ。
葵は葵で、地獄からの訪問者に身をすくませていた。
「‥あなたがあまりに酷い格好だったから。白いワンピースはドロドロに汚れているし、赤い下着は透けているし、髪の毛だって金髪でどこぞのヤンキーかと目を疑った。
目付きも悪いし、どんだけ怖い女なんだと怯えたよ。家にはオレしかいなかったし。
そしたら、妙に丁寧な言葉遣いをするし、尚更あなたのことがわからなくて混乱した」
『‥葵も金髪じゃん。田舎者だからさ、ちょっとわかんなくなっちゃってたんだよね。
都会暮らしに染められちゃって。
あの嵐の中を歩けば、誰だって心がすさむよ。なんで下着の色を覚えているのかな‥』
「‥オレは地毛です。いっしょにしないで。
‥思春期ですから。
あなたが例え地獄からの使者でも、下着が見えれば見るよ。ガン見だよ。
あなたはどこもかしこもあべこべだったね。見た目はどうしようもない女なのに靴は揃えて上がるし、オレにも敬語を使った」
「‥よく覚えていたね。あなたはすぐに何でもかんでも忘れちゃう、記憶喪失のようなひとなのに」
―5年前…、《彼》と暮らしていた部屋を衝動的に飛び出した。
最小限の荷物だけを携え、夜逃げのようにあの街から消えた。
夜行バスに乗り込む前に、1本の電話を掛けた。
“空いている部屋があれば貸して欲しい”と、葵の祖父に頼み込むためだ。
葵の祖父は何も訊かず、快諾した。
住所を教えられ、“訪ねて来なさい”と告げられた。
バスを降り、まっすぐ葵の自宅へと向かった。
暴風雨によって赤いスーツケースは泥だらけになり、ビニール傘は折れて使い物にならなくなった。
川が氾濫し、橋が倒壊するような嵐の中、私はただひたすら歩いた。
立ち止まってしまえば、もう二度と歩けなくなってしまうような気がした。
余計なことを考えないように、脚を進めた。
インターホンを押し、出迎えた葵の表情が、今でも頭から離れない。
『―地獄の鬼が目の前に現れたかのように、葵は怯えていたからね‥』
葵を前に、この子には言葉が通じるのだろうかと焦った。
外国人かと思ったのだ。
葵は葵で、地獄からの訪問者に身をすくませていた。
「‥あなたがあまりに酷い格好だったから。白いワンピースはドロドロに汚れているし、赤い下着は透けているし、髪の毛だって金髪でどこぞのヤンキーかと目を疑った。
目付きも悪いし、どんだけ怖い女なんだと怯えたよ。家にはオレしかいなかったし。
そしたら、妙に丁寧な言葉遣いをするし、尚更あなたのことがわからなくて混乱した」
『‥葵も金髪じゃん。田舎者だからさ、ちょっとわかんなくなっちゃってたんだよね。
都会暮らしに染められちゃって。
あの嵐の中を歩けば、誰だって心がすさむよ。なんで下着の色を覚えているのかな‥』
「‥オレは地毛です。いっしょにしないで。
‥思春期ですから。
あなたが例え地獄からの使者でも、下着が見えれば見るよ。ガン見だよ。
あなたはどこもかしこもあべこべだったね。見た目はどうしようもない女なのに靴は揃えて上がるし、オレにも敬語を使った」