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Re:again
第13章 【さよならの向こう側】
「‥お客さんが来るってコトは聞いてたけど、若い女のひとだなんて思わなかったから…てっきり囲碁の相手かと思ってた。
濡れぼそったあなたを見た途端、じいちゃんのお妾さんだと思って慌てた。
うちのじいちゃん、昔は酷かったらしいんだ。武勇伝だらけだよ。
…慌てふためきながら、あなたをお風呂場に案内した…」
不思議な色の瞳を大きく見開いていた葵。
今と同じ、坊主頭の中学生の葵。
『―なんであの時、“おかえりなさい”って言ってくれたの?』
忘れられなかったのは、葵が驚いていたせいじゃない。
葵が私に“おかえりなさい”と優しく声を掛けてくれたからだ。
そんな風に声を掛けてくれるひとはもういないと思っていたのに、葵の言葉に狼狽え、不覚にも涙がこぼれてしまったのだった。
急に泣き出した私を見て、葵はおろおろと困り果てた。
「‥何となく。ばあちゃんも亡くなってるし、あなたはスーツケースを引いて来たし、いっしょに住むのかと思って。
そうなったらあなたは新しい家族になるわけだから、“おかえりなさい”で合ってるかなって。
悪いひとじゃないことはわかったし…あなたは疲れはてていたから。
どこか怖い世界から、一生懸命帰って来たんだろうと思って…」
視界を、見たこともない虫が横切る。
『ギャッ!虫ッ!』
「‥落ち着いて…オレたちは、雨宿り。虫たちも、雨宿り。
何もしないから大丈夫。
いざとなったらオレがやっつけたげるから…」
『うん……』
ゴザの上に足を投げ出し、握り締めた葵の手を更に強く握る。
今だけは、世界から忘れ去られてふたりぼっちだ。
「‥あなたはどこもかしこも小さい。なんて小さな、手……」
葵が深いため息をつく。
出逢った時も、葵は手だけは大きかった。
玄関先の段差を気遣って差し出された手。
私がその手を掴むと、やすやすと私の身体を家の中に引き上げてくれた。
その瞬間、心から安堵したのだ。
ようやく私は“帰ってこれた”のだと。
「‥オレたち、捨て子だよね。オレはあなたに捨てられて、あなたはソウスケに捨てられて」
濡れぼそったあなたを見た途端、じいちゃんのお妾さんだと思って慌てた。
うちのじいちゃん、昔は酷かったらしいんだ。武勇伝だらけだよ。
…慌てふためきながら、あなたをお風呂場に案内した…」
不思議な色の瞳を大きく見開いていた葵。
今と同じ、坊主頭の中学生の葵。
『―なんであの時、“おかえりなさい”って言ってくれたの?』
忘れられなかったのは、葵が驚いていたせいじゃない。
葵が私に“おかえりなさい”と優しく声を掛けてくれたからだ。
そんな風に声を掛けてくれるひとはもういないと思っていたのに、葵の言葉に狼狽え、不覚にも涙がこぼれてしまったのだった。
急に泣き出した私を見て、葵はおろおろと困り果てた。
「‥何となく。ばあちゃんも亡くなってるし、あなたはスーツケースを引いて来たし、いっしょに住むのかと思って。
そうなったらあなたは新しい家族になるわけだから、“おかえりなさい”で合ってるかなって。
悪いひとじゃないことはわかったし…あなたは疲れはてていたから。
どこか怖い世界から、一生懸命帰って来たんだろうと思って…」
視界を、見たこともない虫が横切る。
『ギャッ!虫ッ!』
「‥落ち着いて…オレたちは、雨宿り。虫たちも、雨宿り。
何もしないから大丈夫。
いざとなったらオレがやっつけたげるから…」
『うん……』
ゴザの上に足を投げ出し、握り締めた葵の手を更に強く握る。
今だけは、世界から忘れ去られてふたりぼっちだ。
「‥あなたはどこもかしこも小さい。なんて小さな、手……」
葵が深いため息をつく。
出逢った時も、葵は手だけは大きかった。
玄関先の段差を気遣って差し出された手。
私がその手を掴むと、やすやすと私の身体を家の中に引き上げてくれた。
その瞬間、心から安堵したのだ。
ようやく私は“帰ってこれた”のだと。
「‥オレたち、捨て子だよね。オレはあなたに捨てられて、あなたはソウスケに捨てられて」