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第13章 【さよならの向こう側】
「‥あなたも食べなよ。遭難するかも知れないんだから‥少し、残しておくといい」

水筒の温かいお茶を啜りながら、葵が物騒なことを言う。

『そんなことないでしょ‥いつかは止むよ。雨間を見て走って帰ろうよ』

葵が考える目付き。

「……トンネルを出てさ、人類が滅びちゃってたらどうする?
あなたとオレしか生き残っていないの…」

『滅びてない!ヴィラに帰ればマイコたちがいるもん!
雨が止んだら走って帰るもん!』

葵が私の頬に頬を擦り寄せた。

「‥例えばの話なのに。あなたって、【夢】がない。
もし全人類が滅びていても、オレは悲しくない。
あなたをおんぶして、安息の地を探す。
山で食べ物を採って、生活する。
あなたが望めば、魚だって捕る。
雨水をシュロの葉で濾して飲み水にする。
井戸だって掘る。
オレは植物を育てられるから、畑を作る。
食べ物には事欠かない。
あなたの髪の毛を野の花で飾ってあげる。
―森の奥に小さなおうちを建てて、毎日あなたに“おかえりなさい”って言ってもらう」

*****

「‥雨が上がったみたいだよ…」

葵の肩にもたれ掛かり、うたた寝をしていた。
絵の道具を入れた私のバッグを、葵が抱えてくれている。
手を繋ぎ、トンネルの出口に向かって歩き出す。

『逆方向じゃない?
さっきはあっちから来たよ』

不安に思い、葵の表情を仰ぎ見る。
薄暗く、どんな顔をしているのかよく見えない。

「‥こっちが近道。
あっちは土砂崩れが起きているかも知れない。激しい雨がいっぺんに降ったから。
あなたと違って、オレには帰巣本能があるから心配ご無用…」

憎まれ口に素直に従うことにする。
葵の言う通り、私は迷子の名人だからだ。
トンネルを振り返って見えなくなった入口に目を凝らした。

うたた寝の最中、【夢】を見た―
森の奥の小さな小屋で、葵と暮らす夢。
猫も数匹いた。
素朴にしつらえた空間で、私は綿花の種をほぐし、葵は暖炉の前で木の実を煎っていた。
葵がつんつるてんなセーターを着ているので、編み直さなくちゃいけないな。毛糸が欲しいな、羊が飼いたいな‥そう思ったところで目が覚めた―

『バイバイ……』

「‥何に別れを告げたの?…」

『もう1つの世界に』

*****
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