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Re:again
第13章 【さよならの向こう側】
*****

トンネルから出てすぐ、葵は樹の幹にかぶと虫を放した。

『いいの‥?』

「‥うん。仲間が待っていたら可哀想だから…」

―トンネルの先には向日葵畑が広がっていた。
雨雫にきらめく一面の向日葵は、絵の中の世界のように美しかった。
黄色の点描が私たちの視界をさらう。

『あぁ‥凄い‥圧巻だね…』

言葉を無くして立ち尽くす私の横で、葵がくすりと笑う。

『もしかして‥知ってたの?』

「‥土壌のサンプルを採りに一度来たことがあるの。
その時は植物が植えられていたけど。
パイロットファームなんだって。
土を寝かせるだろうと思ったから…もしかしたら、と思って。
この向日葵は枯れたら、土に還る。そして、肥やしになる。自然の摂理。よく出来てる…」

『凄いねぇ‥皆にも見せてあげたい』

私の耳元に葵が唇を寄せる。

「‥あなた以外は連れてこない。
ふたりだけの秘密…」

『‥そうなの?…綺麗だねぇ…本当に、たくさん…』

「‥髪切っちゃったから、もう似てないね…」

薄く笑いながら葵が肩をすくめる。

『髪の毛の色が金色だから、葵みたいだって言ったんじゃないよ?』

「‥違うの?…」

『瞳だよ。
虹彩が向日葵の花びらみたい。
葵の瞳の中に、向日葵が咲いているんだよ』

*****

向日葵に視線を向けながら、葵が小さくため息をつく。

「‥みちるちゃん。青春が死んだらね、土に還るのかと思ったけどそうでもないみたい。ちゃんと土に還って次の季節に備える青春もあるみたいだけど、オレの青春は違ったみたいだよ。
…干からびたまま、ミイラになっちゃった。
生きていないのが怖くて、目に触れないように包帯でぐるぐる巻きにしたよ。
だけどね、実は生きているのかも知れない。死んでいながら生きているって‥ゾンビだよね。魂はないのに」

向日葵が咲いた瞳から涙が一雫、剥がれ落ちた。

*****

葵の言う通り、向日葵畑越えのルートは近道だった。
ヴィラの前の通りで私たちは手を離した。
葵が綺麗な笑みを浮かべて呟く。

「―オレはあなたを好きだったことなんて、一度もない。
オレたちははじめから、何でもなかった」

*****
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