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Re:again
第15章 【薔薇色の日々】
葵が蕩けるような微笑みを浮かべる。
おずおずと私の頬に触れ、手の甲で撫でた。
若い葵の皮膚と違って、張りも柔らかさもないはずだけれど、葵は私の頬に触れ続けた。

―オッオレの桃ちゃん…。

葵は顔を更に紅潮させ、どもりながら私の口振りを真似る。
私はもう、半分腐りかけているよ。
きみが思うような人間ではないよ。
胸にひしめく言葉はつぐんだ。
葵が小さく呟いた。

―みちるさん、オレと賭けをしようよ……

*****

孝介と真央の尽力のお陰で、昨日の内に新居へと大きな荷物を運び出した。

空っぽになった部屋を掃き清め、雑巾がけをする。
タンスを置いた跡…葵がでんぐり返りをして突き破った障子の穴。
ひとの顔のように謎の茶色い染み…。
1つ1つに目を走らせ、“ありがとう”と呟きながら磨き上げた。

掃除をしながら【ゴンドラの唄】を口ずさむ。
恋が終わった後に唄うような歌ではないな、とひとりで苦笑した。
それでも、古いボロアパートとしみったれた私、古い恋の歌―
ぴったりなような気がして…再び口ずさむ。

壁の奥からギターの旋律が聴こえた。
寂しがりやの真央は泣いているのかも知れない。
真央の奏でる調べに乗せて、唄った。

最後の最後まで捨てるに捨てられなかった“あおいのおかしばこ”を見つめる。
この段ボール箱も処分すべきだと頭ではわかっていた。
葵が殴り書いた文字以外は、何のへんてつもない空き箱。
それでも―
やっぱり捨てるには忍びなかった。

郵便受けを覗く。
今日も押し花が届いていた。
葵はそういう子だ。
いつまでこちらにいるのだろう‥大学はもう、休学しているのだろうか?
ちらと胸によぎり、考えることを止めた。
葵がこの部屋に縛られないよう、外側から郵便受けの入口にガムテープを貼る。
私の心が、葵に届くように願いながら―

“私はここにいません。きみはもう、自由です。”

最後の点検を終え、“あおいのおかしばこ”の中に押し花を入れ、片手に雑巾を入れた青いポリバケツを提げて部屋を出た。
“さよなら”では心もとなくて、いつものようにドアを開ける。

『いってきます』

*****
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