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第15章 【薔薇色の日々】
「‥ソウスケみたいに、オレを見てドキドキはしないかも知れない。
激しい恋心なんてモノとは無縁かも知れない。
成人はしたけどオレはこどもだし、物足りないかも知れない―でも」

葵が私の手のひらを握る。
私の手よりもずっと、葵の手は冷えていた。
ぶるぶると腕を震わせながら、自分の左胸に私の手のひらを押し当てた。

「オレとキスしたいって言ったじゃない。
オレの身体を欲しがってくれたじゃない。
“彼女が出来たら嫌だって”―
“誰にもあげたくない”って言ったじゃない。“ずっといっしょにいたい”って……
短冊に、俺の名前を書きこんでくれたじゃない」

葵と早織ちゃんをお祭りで見掛けた日、私は自分の短冊ににこう書き足したのだ。

《葵が幸せになれますように》と。

『‥知ってたの?』

「‥5年熟成モノのストーカーですから。
ずっとふたりで、ここまでやってきたじゃない。
“優しい時間”を積み重ねてきたじゃない。
……何十億人の中からたったひとりの幸せを願うのって、そのひとが“特別”だからじゃないの?
オレはあなたの“特別”なんだよ。
みちるちゃんは、オレを愛してる」

葵への感情に、名前を付けることが出来なかった。
私たちは遠い親戚であり、親友であり、姉弟のようであり、時に親子だった。
何にでも変容するから、形がないものだから、何にも似ていなかったから例えようがなかった。
言葉にすることが、恐ろしかった。

「……オレの幸せを願ってくれているのならね、諦めて壷の中に戻って下さい。
あなたの居場所は“ココ”です」

葵の鼓動が伝わる―
手のひらを離して、汗臭い胸に頭を擦りつけた。
葵はよろめき、私が支えた。

『私、邪魔じゃない?
葵の足を引っ張ってない?』

「邪魔じゃない。
―あなたと何かを天秤に架けようなんて、思ったこともない。
比べるまでもない。
みちるちゃんを喪う以外に、怖いことなんてない」

葵の腕がより一層強く、私の身体をかき抱いた。

「“好き”なら大事にすればいい。片時も手離さないで。
…オレはそうするよ。
みちるちゃん抜きではオレは幸せになれない。あなた以外、オレを幸せに出来ない」

『ねぇ―大学休学したんじゃないの?アメリカ留学の話は?』
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