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第6章 【妖怪パンツめくりの罠】
足元の水溜まりは小さなものなのに、ぬかるみだった。
引き返せる内に足を抜かなくてはいけないのに、今なら間に合うのに―
何も考えたくなかった。

「‥こんな風にしたかったわけじゃないのに。
一目顔を見られればそれで良かったのに。
みちるが爽介のことばかり話すから‥楽しそうに話すから…」

手のひらと舌先の愛撫を続けたまま、孝介が低く呟いた。
みちる、と私の名前を呼ぶ時、声が一際低くなった。
わずかに身体が震えていた。
口を開くことを禁じられた私は、彼に掛けるべき言葉が見つからない。
―孝介が泣いているように見えて途方に暮れてしまう。
涙こそ流してないにせよ、孝介は泣いていた。
この子はそう、泣かないこどもだったな‥と思い出す。
学年では二つ違いの爽介の弟。
小柄な爽介と身体の大きな孝介。
ふたりが並べばいつだって孝介の方が兄らしく見える―

舌先の愛撫に私は何度か気をやった。
言葉では私を詰り、それまでの態度も乱暴だったが、孝介の舌先は優しかった。
私の身体が昇りつめて細かく痙攣しても、孝介は愛撫を止めなかった。

「僕の名前を呼んでよ―爽介みたいに、呼んで」

『孝ちゃんッ………』

絞り出した声はかすれていた。

「違う」

執拗に私の秘処に舌先を這わせる孝介。
涙を流さずに泣いている孝介。
泣きたい時に、泣けなかったかつてのこども。
私は孝介が、苦手だった。

賢い孝介はいつも私の本質を見抜いてしまう。
私がどんなにうまく誤魔化そうとしても隠しきれない私の本質を。

“ただの幼なじみ”という立場に甘んじて、爽介のそばにいること。
―そんなことは不自然だった。

私が爽介を好きな限り、爽介を独占したいと密かに胸を痛めている内は“ただの幼なじみ”でいることなんて不可能だった。
孝介の言う通り、私は嘘つきだ。

爽介に想いを寄せる複数の女の子の存在。
爽介が選んだ歴代の彼女たち。
爽介のそばで、私がどんな思いで彼女たちを見ていたか。
彼女たちのことがどんなに羨ましかったか。
妬ましかったか。
―幼い感情で烈火の如く憎んだか。
孝介はきっと、すべてを知っている。
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