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Re:again
第8章 【紫陽花色の雨】
*****

出勤前、身支度を整え玄関を後にする。
長らく空きになっていた右隣の部屋に荷物が運び入れられている。
雨の日の引越しは大変だな‥。
自分のことを棚に上げといて何だけど、こんなボロアパートに越してくるなんてどんなひとだろう。
またもやまだ見ぬ新天地への暮らしに一瞬、意識が傾く。

葵に出会うまで、私はひとりで暮らしていた。
葵に出会ってからもまた、私はひとりで暮らしている。

それなのに葵の訪れを心待ちにしているような毎日だ。
滑稽だった。
自分で自分を小さく嘲笑った。

傘を差し、赤錆れた階段を下りる。
雨滴に濡れた藤色の紫陽花が美しい。
私は白い紫陽花が好きだけれど、葵はピンク色の紫陽花が好きだ。
とりとめもなく昨夜の夢を思い出す‥。

―オレの存在が必要だと言って。

そう言われたいのは本当は私の方なのかも知れないな、と思った。
葵。葵に会いたいよ。
これまでと同じように、ふたりでごろごろ寝転がっていたい。

葵が冷たい雨に凍えていませんように。

*****

「その流れでどうして致さないのか私にはさっぱりわかんないけどね」

20時の仕事上がり。
マイコを近所の居酒屋に呼びつける。
私が当日にひとを呼び出すのは珍しい。
マイコは、私の“外出先の禁酒令”も知っている。
慣れないことをする私を面白がって、マイコはすぐにやって来た。
上下白いジャージで、すっぴんのマイコ。
彼女のそういう飾らないところが好ましい。
おじさんの顔がデザインされた妙な靴下を履いていたので散々詰る。
マイコが駆けつける前から既にちびちびと呑んでいたので笑われた。
呑んでいたものがぶどう酎ハイだということがばれ、彼女は更に声を上げて笑った。

「辛気くさくジュースなんか呑んでないでパーッとやろうよ!」

つやつや顔のマイコがいつもの調子で言う。
調子に乗って生、枝豆、冷や奴、砂肝やネギマ串一揃え、マイコおすすめのカマンベールチーズフライを頼む。
最近、食べることに関心が薄くなってたけど、ちゃんとお腹がぐぅと鳴った。
だんだん楽しくなってきた!
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