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絹倉家の隷嬢
第2章 接触
2.接触
(1)
翌週の火曜になった。
夜、修一は真っ暗な闇の中、絹倉邸の壁を慎重に登っていた。
結局修一は誘惑に勝てなかった。
しかも――
眼前の紅い明かりの部屋にいるのは、あの美しい桜子なのだ。
桜子の凛とした美しさを汚すべきではないという憧れの気持ちが何度も修一を思い止まらせようとした。ところが逆にその気持ちは、背徳感から来るよこしまな誘惑を燃え立たせもした。
見てはいけないと思えば思うほど、見たくて仕方なくなるのだ。
修一は、一歩、一歩と、心臓を激しく鼓動させながら縄を登る。
そして窓の下までたどり着くと――。
部屋を覗いた。
しかし――
誰もいない。
誰もいないのだ。
ほの紅い明かりだけが点いていて、男と女がいないのだ。
カアテン越しだとか、明かりが弱いだとかで見えないのではない。
明らかに部屋の中には誰もいないのだ。
来るのが早すぎたのか? あるいは来るのが遅すぎたのだろうか?
「動かないで」
突然の声に不意をつかれ、修一の体は跳ね上がり、縄が手から離れて落ちそうになった。
「あなたではないかしらと思っていたわ」
桜子だった。
同じ二階のすぐ隣の窓を開け、桜子が上半身を外に乗り出し、右手に握っている小型の回転式ピストルを修一に向けていたのだ。
全て終わりだ。
警察に連れていかれるのだ。
それだけではない。一気に噂は広まって、この集落に住み続けることもできなくなるかもしれない。
修一は、誘惑に勝てなかったことを後悔した。
足は震え、全身から冷や汗が噴き出ている。