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絹倉家の隷嬢
第2章 接触
 修一は幼少の頃に、父に連れられて浅草の見世物小屋で『生き人形』と呼ばれる人形を見たことがあった。それは姿形はもとより、髪も本物を使い、胡粉で仕上げられた肌は温もりさえ感じられる、生きている人間そのものだった。

 あまりの出来に修一はたびたび夢にうなされるほどの衝撃を受けたのだが、その経験がなければこの部屋の桜子たちが生き人形だとは気づかず、本当に気が触れたかもしれない。

 七体の桜子は、今にも動き出しそうな生々しさをもって、斜め上から修一を見下ろしている。
 ただ、それらの桜子は、現在の桜子ではなかった。
 髪は長く、若干だが顔をはじめ全体に幼さを残しているように見える。

 さらに奇妙なのは、手のひらを上に向けて前に差し出す格好になっている両手に、ある桜子にはぐるぐる巻きになった縄が引っ掛けられ、ある桜子には二尺ほどの一本鞭が置かれていることだった。
 どの桜子も、縄か鞭かのどちらかが手にあった。
 それは飾るというより、縄と鞭を『片付けておく』ための置き場所のようだった。

 修一の頭に、三年前に覗いた光景がよぎった。
 あの頃この部屋にいた女も――
 長い髪だった。
 大人の女性というより、やや幼いように見えた。
 そして――縄で縛られ、鞭で打たれていた。

 あれは――桜子だったのだ。
 壁の桜子は、当時の桜子を模したものなのだ。
 修一は、脈が速くなっていくのを感じた。

 その時、部屋の木製扉が音を立てて開き、『生の』桜子が一人、入ってきた。
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