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絹倉家の隷嬢
第2章 接触
 「ネェ……面白いもの見せて差し上げるわ」
 桜子は、精の液の代わりに唾液まみれなった手をガウンでぬぐうと、立ち上がって洋式箪笥の方へと歩いていき、引き出しを開けて一冊の古びた本を取り出した。

 「あなた、縄の扱いには慣れてるわよね?」
 修一はゆっくりうなずく。
 「少女雑誌に画家が描く女性が人気なのはご存知?」
 「あまり詳しくは……姉妹がいないので」
 桜子は本を手に、修一の前まで戻ってきてしゃがんだ。

 「私、あんなの全然良いとは思わないの。竹久夢二のものは陰気臭いし、高畠華宵のものは媚態ばかりだし、彼らの描く女性は『うわべ』なの」
 修一も、竹久夢二や高畠華宵の名前くらいは知っていた。女性から絶大な人気を誇る流行画家だ。
 しかし桜子のお気には召さないらしい。

 桜子は本を修一に手渡した。
 「私の宝物だから丁寧にご覧になってね」
 修一は、言われるまま本をめくり中を見た。
 その中身を見て、思わず息を飲んだ。

 どれもこれも、縄で緊縛され、様々な責めを受ける女性ばかりが描かれていたのだ。

 全裸のままの、あるいは着物をはだけさせられた女性が、全身にいくつも縄を回され縛られて、柱にくくりつけられたり、吊るされたり、そんな状態で鞭や棒で打たれ、陰部をまさぐられ、桶で水を掛けられ……そんな拷問のような扱いを受けている絵ばかりなのだ。

 「伊藤晴雨という画家の絵よ。これこそが女の本当の美しさよ……女は責められてこそ、業が引き出されて美しくなるのよ……」
 修一は『美しい』とは感じなかったが、確実に体内に再び情欲の火種がわき起こるのを感じた。鬼気迫るような徹底的な責め絵は、修一の目を釘付けにした。
 もしもその情欲を呼び起こす力も『美しさ』と表現するならば、これらの絵は確実に美しかった。

 「一週間だけ貸して差し上げるわ。来週の火曜に返して頂戴」
 桜子はそう言いながら、本を食い入るように見ている修一のあごをつかんで上を向かせた。そして言葉を付け加えた。

 「この本で女体の縛り方を覚えてきなさい」
 修一は桜子の言葉に耳を疑った。
 真っ赤な光に照らされた桜子の顔が、さらに妖しい笑みを浮かべた。
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