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絹倉家の隷嬢
第3章 耽溺
 修一も、立ち上がって服をはたいた。まだ首筋と背中が痛い。
 「修一、大丈夫?」
 「……大丈夫です」
 「この三河はうちの書生よ。私の身体が大好きなのに、おあずけ食らっている帝大生」
 「お嬢様……!」
 分かりやすいくらいの狼狽ぶりだ。この三河という書生が、覗き見していた時の桜子の相手だったのだろう。

 「私の勘違いかしら? 腹いせにこのコに暴力振るったのだと思ったわ」
 『このコ』という呼ばれ方に、修一の中で一瞬不快な感情が走った。が、じっとしていた。
 三河は桜子に返す言葉に困っている様子だ。

 「三河、簡単な質問するわ……『ハイ』で答えなさい。私の身体が欲しいのでしょう?」
 「こんなところでおやめください……」
 「『ハイ』で答えなさい」
 桜子はランプを三河の顔にくっつかんばかりに寄せた。
 「……ハイ……」
 三河はまぶしそうに目を半分つむり少し横を向いて、ランプから距離をとった。

 桜子はほほ笑むと、ランプを修一に手渡した。
 そして屋敷の壁に向かって立ち、もたれかかるように片手で壁に手をついた。
 桜子はもう片方の手でガウンの腰あたりをつかむと、ゆっくり裾からたくし上げ、下尻を見せた。

 「よろしくてよ、三河……早く来なさい」
 桜子は首を少し後ろに向けて言った。
 修一も三河も、呆然とした顔で桜子を見ていた。
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