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絹倉家の隷嬢
第1章 邂逅
(3)
朝から降り出した雨は一向にやむ気配がない。
学校帰りの修一は、傘も差さずにずぶ濡れのまま雨の中を歩いていた。少し前に誤って傘を折ってしまったのだが、新しい傘を買う金がなかった。しかし雨の中を傘なしで歩くことなど、修一にとって日常茶飯事なのでほとんど気にならない。
雨に濡れることより、修一は昨日覗いた部屋のことの方で頭が一杯だった。
三年前に知った覗き見の快楽――。
おぼろげにしか見ることができなくても、女体を目の当たりにする興奮――。
しかし庶民の少年が、よりによって子爵様の邸宅を覗き見しているのが見つかったら――警察にでも捕まったら、半殺しになるまで殴られるかも知れない。以前のように子供なら多少の手心を加えてくれるかもしれないが、もう十四である。遠慮はないだろう。
一方で――危険を承知でやってのけることの背徳感、それがもたらす興奮が、修一を突き動かそうとする。
その時、前方から一台の黒塗り自動車が走ってきた。
修一は幅の狭いあぜ道を、なるべく端に寄って歩いた。
誰の自動車なのかは簡単に想像がつく。そんな高価なものをこの辺りで所有しているのは絹倉家だけだ。絹倉家の車か、絹倉邸へ向かう客人の車のどちらかでしかない。
修一は、無意識に視線を自動車からそらせた。
自動車が修一の横を通り過ぎる時、ちょうどそばにあった大きな水たまりに車輪が突っ込み、その勢いで飛び散った大量の泥水が修一の学生服の足から胸元辺りにまでかかった。
修一は多少不快に感じたものの、身分の違う人間に何をされてもどうしようもないのが常なので、気にも止めずそのまま歩き続けた。