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第9章 依頼人　瑠璃

舞台の幕が下り麗子に誘われ楽屋へと足を運んだ。

母は化粧を落としているところだった。

母を目の前にして瑠璃は何と言っていいか分からなかった。ずっと自分を拒絶してきた母。
今更何を話すというのか。

「瑠璃、舞台どうだった？」

声をかけてきたのは母だった。

「ごめんなさい、よく、分からなかった」

瑠璃はポツリと答えた。

「そう。今更よね。
　でも、知ってほしいと思ったの。
　あなたは産まなきゃよかった命じゃなく
　産みたかった命なの」

母は振り向いて瑠璃を見つめた。

「今更...何を言ってるの？」

瑠璃は小さく驚く。

「そうね...
　私にとってもあまり思い出したい過去ではなかったから
　ずっとあなたを遠ざけてきた。

　でもある男に会ってね
　思い出したのよ。
　彼をとても愛していたことを。
　その人の子供を身籠れた喜びを...

　ただ、その事実を彼は受け入れてはくれなかった。
　彼にとっては遊びの一人に過ぎなかったから...
　それをずっと受け入れられなかったの。
　ごめんなさい」

母はまるで舞台の台詞のように私に向かって頭を下げた。

「たぶんこれからもあなたとの関係は変わらないかもしれない。
　でも、私はあなたを愛しているわ。
　不器用な人間でごめんなさい」

母はそういってにっこりと笑った。

瑠璃は狐につままれたような感覚だった。
瑠璃は何も答えられず小さく頭を下げて楽屋をあとにした。