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氷の華~恋は駆け落ちから始まって~
第5章 彷徨(さまよ)う二つの心
―ああ、何ということ。
 男の顔をひとめ見ただけで、彼女の記憶はすぐに甦った。
 この男が昨夜、自分に陵辱の限りを尽くしたのだ。めざめた時、その記憶がまるで合わせ絵の一枚をなくしたように抜け落ちていたのは、自分自身が忘れてしまいたいと強く願っていたからに相違ない。
 サヨンはじりじりと男から離れた。
 トンジュは熟睡していた。しかも、憎らしいほど安らいで満ち足りた顔で。
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