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とあるオクサマのニチジョウ
第7章 困惑と決意のオクサマ
テーブルの上に並んだ儘の朝食を虚ろな瞳で眺める。
『……掛けてきちゃダメだって言っ………』
恭子の手から受話器を奪い取ると、寝室へと扉を閉めて姿を消した正行。
呆然と立ち尽くした恭子の耳には、引き戸越しに抑えた正行の声が届く。
『……この前だっ………だから………』
正行の言葉の端々が頭にこびりつく。
『……一昨日だって………だったろ………』
抑えた所で聞こえてくる正行の声。
…一昨日って……いきなり帰れないって…言ってきた日………
料理を再開する気力が湧いてこない。
立ち尽くしている間も、正行の囁くような声が耳に届く。
『……もう……五年以上になるんだから……俺の立場も………』
感情が昂ったのか、今までよりも鮮明に聞こえた正行の声に、恭子の瞳は大きく開かれた。
「…ご…五年…以上……って………」
思わず開かれる、恭子の唇。
…まだ……結婚して………三年………
ギュッとエプロンの裾を掴んだ両手。
視線を下げれば、掴んだ左手の薬指には指輪。
同じ物を同じ指に嵌めた正行は、引き戸の向こうで女と密談。
…私より…先に………
…あの…女の人と………
少なくとも正行の行動から、ただならない関係である事は安易に理解出来た。
「……裏切り……かぁ………」
恭子の罪悪感の根源。
夫婦として、伴侶を裏切る行為。
…私……だけじゃ……無かったんだぁ………
突然開いた引き戸。
スーツに身を包んだ正行は恭子の前を、言葉も無く足早に部屋を出て行った。
バタンッとけたたましく閉まる玄関扉の音が聞こえるまで、恭子は無言で立ち尽くしていた。