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とあるオクサマのニチジョウ
第11章 Scene.01
 
 シャワーを浴びて意識を覚醒させた恭子。

 体に何も纏わせずに、洗い物を済ませて髪を乾かす。

 窓から見える景色は、一段と暗さを増していた。

『………帰ったよぉ』

『今日も早かったじゃない』

 杏子たちのやり取りが洩れてくる。

 何気ない、毎日のやり取り。


…私も…ああだったんだっけ………


 新婚当時から今までを思い出し、擦れ違いの生活が続く現状に苦笑する。

『……ご飯準備するから待っ………』

『…………よぉ』

 二人の会話を耳にしながら、恭子は身嗜みを整えていく。

 いつもの薄化粧を施して髪を梳き、鏡でチェックする。

 杏子が調理をし始めた物音が耳に飛び込んでくると、恭子は静かに玄関へと向かった。

 薄暗くなった部屋を出る。

 外廊下の天井には、早くも照明が灯っていた。

 隣の部屋から聞こえる物音を注意しながら鍵を掛ければ、ここから恭子の鼓動は徐々に速まっていく。


…今の私の幸せは………


 足音をたてずに廊下を足早に進み、鉄階段をゆっくりと下りる。

 アパートの敷地から一歩出ると、恭子は軽く嘆息しながらも鼓動を速めていった。


…これくらいしか愉しみないけどぉ………
…でも……あの部屋に居るより幸せ…かもぉ………


 振り返ってアパートの自室を一瞥すると、恭子は薄暗くなった道路を歩き出した。
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