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とあるオクサマのニチジョウ
第13章 Scene.03
 
 視界に飛び込んできた玄関の様子に、思わず声を洩らす。

 見なくなっていた黒い革靴。

 正行が帰宅している証拠があった。

 暫く見ていなかった革靴に目を奪われながらも、恭子は玄関から上がって中へと進む。

『………で………だよ』

 リビングの扉の前まで来れば、洩れてくる正行の声。


…一体……誰と………


 玄関には正行の革靴しかなかった事から、電話をしている事は安易に想像出来る。


…やっぱり……あの…女………?


 次に脳裏に浮かぶのは、恭子よりも若い女の存在。


…一体……今更帰ってきて……何を………


 擦れ違い生活が始まった前でも、正行がこんな時間に家に居た事が無かった。

 恭子に猜疑心が芽生える。

『……って事だからさ。もう少ししたら帰るよ』

 扉の前でも佇む恭子の耳に飛び込む、今では聞く事の無くなった正行の優しい声。


…帰るって……此処が家じゃ…無いんだぁ………


 正行の言葉に顔を歪める。

 分かっていただけに、恭子の瞳から涙が溢れる事は無かった。

 扉から正行の声が聞こえなくなったと同時に、恭子はリビングの扉を開けた。

「………えっ!?」

 突然姿を現した恭子に、正行は目を見開いて体を強張らせる。

 その手には、使っていたであろう携帯が握られていた。

「………今日は早かったんですね」

 正行の姿を見る恭子の口からは、普段の恭子からは想像が出来ない、冷ややかな口調で言葉が飛び出した。
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