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とあるオクサマのニチジョウ
第13章 Scene.03
 
 正行の顔に動揺が見えたのも一瞬だった。

「……あぁ。ちょっと忘れ物をね」

 さっきまでの聞こえていた優しい声とは雲泥の差。

 素っ気なく言葉を吐き出して寝室へと向かう正行に、恭子は声を発する事も無かった。

 疾うに、夕食の時間帯になっている。

『今、ご飯準備しますねぇ』

 以前の恭子なら、正行の返事を待たずにキッチンに立っていた。

 しかし今は、ソファーに座って、ただ、閉められた寝室の扉を見詰めるだけだった。


…何で……一緒に居るんだろぉ………


 最早、一緒という言葉さえ相応しくない生活。

 二人を繋いでいるのは、役所に提出した紙切れの存在だけ。

「………また暫く出張だから」

 突然扉を開けたと思えば、荷物を抱えて素っ気なく言葉を吐き出した正行。


…こんな夜から…何処に出張行くつもりなのよぉ………


 思っていても口には出さず、視線だけで正行を追う。

 何を入れたのか、キャリーケースやらバッグを抱えた正行。

 一泊や二泊の荷物じゃない事に、恭子は呆れて嘆息する。

 玄関へと向かう正行の後を追う事も無くなった。

 玄関扉が閉まる音に肩から力が抜け、恭子はバッグへと腕を伸ばした。


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