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とあるオクサマのニチジョウ
第14章 Scene.04
 
…確か…こっちよねぇ………


 人影が進んで行った方へと歩みを進める。

 深夜に駅前を離れれば、やはり人影は殆ど無く、遥か前方を進む人影を見失う事も無かった。

 先程までの肉欲の昂りはあっという間に引き、人影を追う事だけに意識が向いていた。

 付かず離れずの距離を保ち、曲がり角で姿が消えれば小走りに進む。


…こっちの方って………


 アパートから僅かに方角がずれた住宅街。

 何度か通った事のある景色。

 アパートから余り離れていない距離に、恭子は怪訝な面持ちになる。


…たいして…家と離れてないんじゃ………


 視線の先に小さく写る背中。

 家に帰る事も無く歩みを続ける正行の姿。

 その姿が消えたのはアパートから然程離れていない、小さな一軒家だった。


…こんな処で……あの女と………


 恭子の居るアパートの一室よりも、若い女が住む家へと帰っていった正行。

 出張や泊まり込みだと言いながら、やはり女の家に転がり込んでいた。

 煌々と玄関を照らしていた明かりが消えた時、恭子の感情も見る見るうちに冷えていった。


「………」


 恭子は正行が姿を消した家に乗り込む事もなく、表情を無くした儘で踵を返したのだった。

 暗い夜道を歩く事、十数分。

 見慣れたアパートに戻った恭子は、ゆっくりと足音を忍ばせて鉄階段を上がった。
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