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とあるオクサマのニチジョウ
第3章 働くオクサマ
「こんにちはぁ」
廊下を通って入室した事務室に、恭子のおっとりした声が響く。
しかし、机が二つ程置かれた、然程広くもない事務室に人の姿は無かった。
それでも、恭子は気にする素振りもなく、隣の更衣室へと姿を消した。
「あら、お疲れさま」
扉を開ければ、スチール製のロッカーが二つに、座面だけで一メートル程度の長さがあるソファーが置いてあるだけの狭い空間。
そこで私服へと着替えていた女性が、恭子の姿を見て声を掛けた。
「お疲れさまですぅ」
恭子は挨拶を交わしながら、ロッカーの方を向いてその女性と並んで立つ。
「今日も後よろしくね」
「分かりましたぁ」
着々と私服へと着替える女性は、いつものように隣に立った恭子に仕事を引き継ぐ。
女性の夫が経営している小さな喫茶店。
その夫を手伝う妻が夕方には帰宅するのと入れ違いに、恭子は夫婦の店を手伝っていた。
「恭子さんには長い間手伝って貰ってるし、あの人に給料上げてもらうように言っておくから………」
「そんなぁ。今でも充分ですよぉ」
給料の低さに負い目を感じていた妻のいつもの言葉に、恭子はロッカーに私物を入れながら苦笑を浮かべる。
「ただでさえ、アタシの代わりに不規則で来て貰ってるし……」
「それは承知の上ですからぁ」
病弱気味である為に長時間の労働が出来ない妻の言葉に、恭子は妻の方へと顔を向けて気にしていないとばかりに笑みを浮かべた。
「それに………あら?」
尚も言葉を続けようとしていた妻だったが、恭子の姿を見ると困惑の表情を浮かべて口を噤んだ。