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とあるオクサマのニチジョウ
第3章 働くオクサマ
 
 顔と体を熱くさせ、鼓動をドキドキと速めながら戻らなかった腕はあっさりと戻ってくる。

 恭子は先程までコーヒーカップが乗っていたトレイを、交差した腕で無意識に胸に押し当てて振り返る。

 固いトレイに因ってブラウスの中で豊満な胸が拉げている恭子に、笑みを向けているのはカウンター席に座っていた客だった。

 スーツをビシッと着こなして細い眼鏡を掛けた、ぱっと見に仕事が出来そうな壮年の男。

 恭子が喫茶店で働き始めた当初から、ちょくちょく姿を見掛ける常連の客だった。

 幾度と接客をするうちに会話をするようにもなり、名前もお互いに知れる程になっていた。

「つ、筑波さん、何でしょうかぁ?」

 言葉に詰まりながらも声を吐き出す。


…ば、バレた訳…じゃないよねぇ………


 ほんのりと赤く火照った顔を見詰められ、ドキドキと鼓動を速める恭子。

 いつから姿を追われていたのか分からないだけに、筑波が向ける視線に顔を僅かに俯かせる。

「いやぁ……。今日はいつにも増して、色気が凄いなと思ってねぇ」

 筑波の言葉に、ドキッと胸が弾む。

 普段から、下手をすればセクハラとも取れるような軽口を叩く筑波。

 それでも、筑波の明るい雰囲気や口調が、恭子に嫌悪感を感じさせなかった。

 恭子もまた、いつも軽口で言葉を返していた。

 しかし、今は薄いブラウスの下はノーブラで、裾がヒラヒラした短いスカートの下はノーパンの恭子。

 新たな性癖の一歩を踏み出し掛けて顔や体に熱さを覚えていれば、何時にも増してフェロモンを撒き散らしている事に気付く。

「そ、そうですかぁ?」


…もしかして…気付いてるぅ?
……いつもおっぱい見てるの分かってるけど…バレてないよねぇ………


 なるべく平然を装おうと言葉を吐き出すものの、内心の焦りは強まる一方。

 自然と無意識のうちに、恭子は更にトレイを胸に押し付けるのだった。
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