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とあるオクサマのニチジョウ
第5章 葛藤するオクサマ
暗い玄関に開かれた玄関扉から差し込む月明かり。
その中に見慣れた黒い革靴を視界に入れると、恭子は居ても立ってもいられなくなる。
帰りを待ち望んでいた、夫・正行の革靴。
体を可愛がって貰おうと、朝から準備も万端にしていた感情が蘇る。
恭子は後ろ手に扉を閉めると、一目散に部屋の中へと脚を進める。
「正行さん…正行さんっ」
夫の名前が勝手に口を吐く。
勝手知ったる自室だけに暗くても壁に当たる事は無く、脚は正行が居るであろう部屋に向かう。
しかも、さほど広くないアパートの自室。
僅か十数歩で、引き戸の前へと辿り着く。
「…正行…さぁん……」
二人が寝室に使う部屋の引き戸に手を伸ばし、扉の向こうに居る筈の夫の名前を呟く。
引き手に掛けた指先に力を込めて、腕を動かそうとした時だった。
「……っ……」
不意に脳裏に浮かんだマスターの顔。
そして、ガラス窓に写った、マスターのモノによがり狂い、淫らな痴態で喘ぐ自らの姿。
瞬間に伸ばした腕から力が抜けていく。
正行が帰宅している事に破顔した表情も、徐々に沈みがちになっていく。
…もう…私は……綺麗な体じゃぁ………
腹の中に、淫欲に陥って貪るように飲んだマスターの精液がある事を思い出す。
家庭の為に出張や残業を繰り返し、疲れた体に鞭を打って働く夫。
「もう……取り返し…つかない………よねぇ………」