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くちなし
第2章 香
「お兄様…。」
私は、身内の人が側にいると思うと身体中の力が抜けていった。

「ねぇ?君って確か…紀村家の次男くん?
 ずいぶんとしたことを…。可愛い妹に…してくれたね?」
いつもの優しい物腰は変わらないが、明らかに表情が冷たい。

「あららー。見つかっちゃいましたかー。
 いーっちばん見つかって欲しくない人に見つかっちゃいましたねぇ。ふふふ!」
「そうだろうね。君のことなんて、潰すのは簡単なんだよ。
 そうだなぁ…まずは…軽めに…。
 君が遊んでいる彼女?
 クスクスっ…僕のところに来て、ずいぶん楽しんでいったけど?家の妹を可愛がってる暇なんてないんじゃない…?かな?クスクス」
「…っな!あんた…。」

明らかに表情が変わった昴。

「…昴くん…??」
「っ!くそ!」
私から身体を離し、兄を睨みつける。

「雅!!ごめんよ…。あぁ…。こんな姿になって…。
 可哀想に…。」
兄の上着を身体にかけられる。
「お兄様…。ありがと…。」

「せいぜい兄弟ごっこでもしてろ!」
そういうと、私たちの前から去っていった。

「お兄様…ごめんなさい…。こんな…はしたない姿…。」
胸元を隠し、俯く。

「ん。大丈夫。雅は悪くない。ささ!
 帰ろう。黒田が君を迎えに来てるはずだよ。」
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