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くちなし
第2章 香
「驚かせてしまったかな?僕は、いつも雅を驚かせてばかりだなぁ…。ごめんよ。」
ーふわっー
私の頭を優しくなでる。
「お兄様…。心地いいわ…。」
「んー?そうかい?ずっとしててあげるよ。」
「ふふふ!それにしても、どおしてお兄様が温室へ?」
「それは、くちなしの花を見にだよ。
 ……雅と同じ香りがする。雅が近くにいるような感覚になるんだ。心が休まる。」
優しく、どこか寂しそうな顔をしているように見えた。
「そんなことでしたの。それなら、私が側にいますのに。わざわざ温室なんかへ来なくとも…。」
「こらこら、それを僕以外の人へ言ってはいけないよ。
 そんなこと言われたらどんな男でも、勘違いしてしまうよ。…………もちろん…」

ードサッ!ー
「…!」
身体が動かない。
兄が私の上に覆い被さっていると知ったのはもう少し後だった。

「この僕もね?クスクスっ」
「な!お兄様!!からかわないで!もう子どもじゃないのよ!!」
「からかってなんかいないよ?僕は、いつでも本気だよ。」
「お兄様……?」
見透かされているような視線にゾッとする。
恐怖を通り越して、憎しみのようなものまで感じる気がする。
「うん?」
「どいてくださらない…?少し重いわ…。」
「そうだね。さっき、黒田と部屋で何をしていたか、教えてくれたら、いいよ?クスクス」
え…?兄は知っていたのか。
「お兄様…いつから……それを…。」
「本当に、お前は素直だね。可愛いいよ。そして、憎らしい。あの男のどこがいいんだ?」
兄の声が、いつもの優しい声でなく、低くておそろしい声だ。
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