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くちなし
第2章 香
「黒田とは…何もないわ…。」
兄と目線をそらして話す。
「クスクス…黒田に口止めでもされてるのかな?
 使用人とお嬢様の恋愛は、上手くいかないよ。
 そのことくらいはわかっているだろう?
 身分が違うんだよ。雅と黒田では…ね?」

どうして、そんなに悲しい目をするの?お兄様…。

「……。恋愛…じゃないわ…。」
「ん?そうなの?
 それじゃあ、雅の片思い??クス…」
「お兄様には、関係ないじゃない!!!!」
声を荒げてしまう。
「おやおや…そんなにムキにならなくても…。
 …雅。よくわかったよ。」

そのまま兄に強く抱きしめられる。
そして、声にならないような声で囁く。
「…あいつのものにならないでおくれ…。
 僕だけの妹でいてくれないかな…。」

どうして、そんなに悲しい声なの…?

「お兄様…?」
「あぁ…。ごめんよ。雅。あと少し…後少しだけ…。
 このままでいておくれよ…。」

私の胸にすがりついてくる兄は、小さな子どもの様に見えた。そして、兄ではない一面に圧倒されてしまった。


「ごめんよ。雅。困らせてしまったね。」
「どうされたの…?いつもは、こんなこと…。」
「雅が可愛いからかな。僕が僕でなくなりそうだ。」

兄の顔がいきなり近づいてきて、私は目をおもいっきり瞑ってしまう。
「…………。」
「…はぁ…。そんな顔されたら、もっと…したくなっちゃうでしょ。だから、目あけて。」
「…ごめんなさい…。お兄様…私…。」
「しーっ!それ以上は言わないで。僕だって、わかっているからね。僕たちは、兄弟だから。」
そういうと、私の前から立ち去って行った。
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