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くちなし
第2章 香
「ん…。そっか…。私は、もっと違う気持ちかもしれないの…。黒田…。」
黒田は、目を見開いて私を見る。
「お嬢様…。私は…。」
「ねぇ…黒田。本当の私を見てくれるのは黒田だけ。
 私をわかっているのは、黒田だけなの。」
俺は息が止まるかと思った。こんな、雅の気持ちを聞いてしまっては、理性がもたない。
そして、こんなに近距離で彼女の香りを感じる。
「ね…黒田…。」
そんな、かすれた声で言わないでくれ。
余計に愛おしくなってしまう。
「いけません。今すぐ離れて下さいますか。」
「いやっ!お願い…私のこと…そんなに嫌いなの…??」
俺の中で、音をたてて何かが崩れた。

「んっ!……ふっ…!………。」
「………っ。……はぁ……っ!」

ーちゅ…っ…ちゅ…ー

「…黒田ぁ…。もっとして…。触って…。」
「……。」
もうきっとダメ何だろう。一人の男として彼女の前に立っている。
もう、後戻りはできない。

「……。雅…。なんで…俺なんだ?」
「ずっと…黒田は私自身を見てくれていたと思うから。
 安心させて欲しいの…。」
「ふふ…っ。雅。それは、違う。俺を好きだと錯覚しているよ。俺だって、香りに惑わされているだけかもしれない。」
なんて、心にも思っていないことが次々と出てくるんだろうか。つくづく、酷い男だと思う。

「…錯覚?」
「そう。錯覚。」
「それじゃあ、その錯覚のままでいいの。」
「………。」
そんな、目に涙を溜めて言うな。もう、俺の理性は崩壊しているんだから。何をするかわからない。
こうやって、好きだと言われると舞い上がってしまいそうな程、嬉しい。

ーちゅー
頬を口づけをする。
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