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くちなし
第3章 闇
「今日の夕方暇?」
「え…なにも無いけど…。」
「んじゃちょっと付き合えよ。」
「え…うん…わかった。」

そんな約束を善として大学に着いた。
どこに行くんだろうか。
少し不安なような、楽しみな気がする。
そんなことを考えながら、大学の講義を受ける。

善とどこで待ち合わせをするとも話さなかった。

「どこにいたらいいんだろ…。」
キョロキョロ辺りを見回す。
善の姿はない。
人が行き交う中に兄の姿を見かける。
綺麗な女の人と一緒だ。きっと、大学の臨時講師だろう。
また、違う彼女の一人なのか。
楽しそうに笑う女の人。
微笑み返す兄。
そんな二人を見ていると、目をそらしたくなった。
どうしてだろう。
兄は私に気づいたようで、さっき女の人へ向けられていた微笑みとは違う笑みを浮かべ私を見つめる。
隣にいる女の人の笑顔が消える。
きっと、私の存在がプラスにはならないようだ。

「雅。終わったのかい??」
「ええ。これから少し出かけてくるわ。」
「そうかい。あ、この方はここの講師だよ。
 この子は妹だよ。」
私と女の人に説明する兄。
「あっ。初めまして。」
「あら。妹さんだったのね?可愛い妹さんね。悠くんも鼻が高いわね。」
「クスクス…そうですね。可愛くてほおっておけませんよ。」
兄にそう言われて少し頬が熱くなる。
嬉しい。

「ところで、誰と出かけるんだい?一人なら僕も一緒に行くけど…?」
不安そうな顔をする。
「大丈夫ですよ。悠さん。俺と少し出かけるだけですから。遅くはなりませんよ。」
「善っ!」
私の後ろに立ち兄にそう言った。
兄は、表情を変えず立っている。
「へぇ。あまり遅くならないんだよ。じゃあね雅。」
そう言って歩いて行ってしまった。
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