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くちなし
第3章 闇
「善どうして…?」
善は、左手を後ろに回す。
「なんか…したくなったから…。ごめん。」
ほんのり赤い善の頬。夕日のせいなんかじゃない。
「……していいことと…悪いことがあるわ…。」
口ではそう言うが、本当の気持ちはどうだろうか。
「悪かった…。もう帰ろう。」
「嫌よ。まだ来たばかりじゃない!」
「は?お前本気で言ってんの?俺にキスされたんだよ?
 …少しは警戒しろよ!俺だって…男だぞ…。」
怒っているようだが、悲しさも感じる。
善に手を伸ばす。
「やめろ!触んな!」
さっきは自分からキスしてきたのに、どうして今私が触れるのはダメなの?
「……ごめん。私やっぱり帰るわ…。」
立ち上がり、善に背を向ける。

ーグイッー

「行くな。」
「っ!!!」
「…悪かったって思ってる。必要以上に触れられると…俺が…俺でなくなりそうで…。ごめん。」
「なんで…自分からは迫って、私が近づくと離れるの?全然わからない!」

ードン!ー

善の胸を叩く。

「叩いて済むならいくらでもやれよ。」
「善って…本当わかんない。私の香りのこともあまり言わないし…。感じないの…?」
「バカか…。香りのことは、わかってるっつーの。雅が触れてほしくないことだろ…。俺だって…こんなに近くにいたら…いつお前を…。」
私を掴んでいる手に力が入る。
「いいよ。好きにして…。」
そうだ。黒田だって好きじゃない私と寝たんだ。私だってできる。善になら抱かれてもいい。
「っ…!!雅…。」
「善…もう一度キスして。」
「………目閉じろよ。」

ーちゅ…ちゅっー

「んっ…はぁ…っんん。」
「………っ!ヤバい…。」
余裕のない顔を私に見せ、視線を外す。
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